「Sのやつ、野球辞めるらしいよ」
高校二年生の夏休みだった。県外の高校に進学したTからそう聞かされて、えっ、そうなんだ、と俺は返した。それは意外だった。
Sは、俺たちの中学校時代の同学年で、卒業後はTと同じ高校に進んだ。俺たちが1年生のときに転校してきて、すぐに野球部に入り、エースピッチャーとして活躍した。元々住んでいた隣県ではかなり有名だったらしい。それが、親の仕事の都合で、うちの中学校に転校することになったんだそうだ。うちは公立の中ではそこそこの進学校だったけど、運動部はどこもレベルが低かった。もちろん、野球部も例外ではない。
実は、俺はSとは直接話したことはなかったが、人伝に聞いたところでは、こんな学校に来ちゃって、などと不満を漏らしていたらしい。転校以前に通っていた学校は、かなり野球が強かったんだろう。野球部の部員はかなり気を悪くしていたが、いつも負けてばかりだったチームが、Sが投げた試合だけは勝てるようになったから、文句は言わなかったという。
おそらく、S自身も、自分が嫌われていると分かっていたのだろうと思うが、それでも、言わずにいられなかったのだろう。内心はかなり、悶々としていたんだろうと思う。
それほど、野球に対して強い思いを持っていたSがどうして野球を辞めることになったのか、よく分からない。俺はTに尋ねてみた。
「でも、なんで、野球辞めちゃうの?将来、プロ入りするかもしれないとか言われてたんじゃないの」
当時、将来はプロ入りするんじゃないか、いや、その先のメジャー行きまで狙っているらしいなんて噂があったのを思い出していた。
「ああ、肘を痛めたらしいよ。Sに聞いたら、変化球の投げ過ぎだと言ってた。」
「あ、そうなんだ。でも、手術とかしても、治らないものなのかな?」
「さあ、俺もそこまでは聞いてないけど、腕を包帯で巻いて吊ってたし、本人はすごく落ち込んでたな」
なんだか腑に落ちないが……まあ、俺が首を突っ込んでどうなるわけでもないし、適当にこの話題はそろそろ切り上げよう。そう思って、何気なく言ったんだ。
「相当ひどいんだね。毎日、大変だろうな」
「いや、利き腕じゃないから、日常生活はそれほど困るわけじゃないと言ってた。そんなに心配いらないんじゃない?」
Tはそう言った。そうか……なるほど。この件について、俺が話せることはもうない。Tもそれを理解しているのだろう。俺同様、地元に残った友人のことを聞いてきたんで、そこから先は、その話で盛り上がった。
























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