これは私が先輩から聞いた話です。
私と先輩は学生時代からの釣り仲間で、
社会人になってからも、夜の漁港で竿を並べて話すのが習慣になっていた。
その夜も、静かな堤防で釣果やルアーの話をしながら竿を出していた。
昼間は家族連れで賑わう場所だが、夜はほとんど人がいない。波の音だけが響いていた。
「そういえばさ、昔ここで溺れてる人を助けたんだよ」
先輩がふと思い出したように言った。
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その夜、先輩が釣り場に着くと、テトラの向こうからバシャバシャと水をかく音が聞こえた。
近づいてライトを向けると、50代半ばくらいの男が必死にもがいていた。
「すみません! 引き上げてもらえませんか!」
声は震えていて、息も荒い。
先輩は慌ててテトラを降り、手を伸ばして男を引き上げた。
男は何度も頭を下げ、「本当に助かりました」と礼を言いながら、濡れた服のまま足早に暗闇へ消えていった。
翌週、先輩が同じ釣り場に行くと、背後から声をかけられた。
「この間は助けていただいて、ありがとうございました!」
振り向くと、そこには30代前半くらいの男が立っていた。
先輩は一瞬、言葉を失った。
(あれ…こんなに若かったか…?)
だが、あの出来事を知っているのは助けた本人だけのはずだ。
先輩は戸惑いを胸に押し込み、話を合わせた。
男は改めて深々と礼を述べ、「お詫びに」と新品のルアーを差し出した。
先輩は断るのも悪いと思い、受け取った。
そのルアーはやけに重みがあった。
翌週、先輩は仕事が忙しく、釣りに行けなかった。
何気なく見ていたニュースで殺人事件の報道が流れた。
先輩は画面を注意深く見つめた。
犯人が逮捕された場所が近所だったからだ。


























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