その晩、昼間私を助けてくれた巫女さんが自宅に来ました。なぜ家を知っているのかと思いましたが、なんてことありません。あの老婆に聞いたとのことでした。
巫女さんは例の老婆の件を丁寧に謝罪した後、一枚の写真をそっと差し出してきました。
古い写真でした。今の綺麗なカラー印刷ではなく白黒で、画質も少しぼやけています。
けれどそこには、昼間のあのお兄さんが写っていました。
「この人を見ませんでしたか?」
随分と古そうな写真なので違和感はありましたが、昼間会って話したことを伝えました。
巫女さんは少し焦ったような雰囲気だったので、内容が内容なので少し恥ずかしかったですが、もらったチョコパイを渡しちゃったこと以外、包み隠さずお話ししました。
すると彼女は私の手をぎゅっと握り
「これから起こることに、あなたの責任は一切ありませんから。」
そう言って、帰っていきました。
その時は、意味がわかりませんでした。
翌朝、快晴なのに集落のすぐ裏の山で大規模な土砂崩れが発生しました。
時間帯のせいで、住民は全員助からなかったそうです。
現地を見に行った人の話によると、
土砂崩れは「集落の部分」だけを狙い澄ましたように崩れ落ちていた、とのことでした。
私は、思いました。
巫女さんが言った「生者を唆す」という言葉。
お兄さんが、集落の破滅に関する言葉を異様なまでに聞き出そうとしてきたこと。
そして…私の「滅びて欲しい」という言葉。
私がやったなんて、思いません。私の言葉が、土砂崩れを起こしたなんて…。
もし何かが関係しているのだとしたら、引鉄を引いたのは彼なのです。私では、ありません。
それから、しばらく経ちました。それでも、いまだに土砂崩れの片付けは終わっていません。一部の道が通行止めになって、非常に不便です。
そんな時、ふとした時、私は思ってしまうのです。
――もし、あの時私が「死んでしまえ」と言っていたら、もっと早く片付いていたのでしょうか。
それから、彼と交わした死後の「約束」はまだ有効なのでしょうか、と。
そう考えてしまう、後味の悪い体験談です。






















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