A「今日は楽しかったね」
私「ね。…ごめんね、こんなとこまで来させちゃって。」
A「いいよ、いっぱい話せたじゃん!また今度。」
…私はこのとき、ある違和感を覚えた。
私「また今度…?」
A「なんで疑問形なのwまた今度会おうね!」
話すほど、その違和感が確証に変わった。Aの笑い方が、変わっている。アッハッハと豪快に笑う彼女が、今は「ふふふふふ」と上品に、だが冷たく笑っている。面白いという感情は汲み取れず、それが義務であるかのように、平坦に起伏なく機械的に笑うだけであった。その声が、夜の住宅街に低く響いた。
ふと彼女の顔を見た。彼女の目を見た。
真っ暗でわからなかったが、すこし、彼女の顔にも違和感を覚えた。その正体が分からないまま、その顔はすぐ元に戻った。
私は強引に話を続けて、彼女が笑うよう冗談を連発した。
するとまた彼女は、
「ふふふふふふ」
と、これまた恐ろしく機械的に笑った。
そしてこのチャンスを逃すまいと、彼女の顔をじっと見つめた。
暗闇の中であったが、それはハッキリとわかった。
彼女の目玉は真っ黒で、白目はなかった。そして、あの時私が感じたような、異常に鋭くて尖った目だった。
が、瞬く間に彼女の目は普段通りの愛嬌あるものに戻った。
私は体で理解した。この目は、あの手紙を拾った時の視線と同じだと。そして、これは「Aではない」と。
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学生時代ぶりの恐怖と、まだまともに霊を信じれない気持ちが共存していた。そして部屋で、夫にこの話をしようとした。
マンションの部屋にたどり着くまでには、なんの違和感もなかった。気づけば頭痛は収まり、平静を取り戻した。
しかし、部屋のドアノブに手をかけた時、例の声が聞こえてきた気がした。
「ふふふふふ」
と。私は一瞬で後ろを振り返ったが、そこには何もいなかった。だが、まだその声はどこからか聞こえていた。
恐る恐る部屋へ入る。
そうすると、リビングで、夫がテレビを見て爆笑していた。ホッとした。夫は私の方を向いた。その顔は普段の夫であり、あの時のAの爬虫類のような顔ではなく、優しさと笑みに満ち溢れた、暖かな表情だった。
さっきの声は、きっと夫の声。でも今回は今までの体験とは違った。様々な呪縛から解放されたような安心を感じ、ソファで夫の隣に座り眠ってしまった。
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目を覚ますと、まだ15分しか経っていなかった。
体には毛布が掛けられ、その隣で、夫が声を抑えてツボに入っているのを見た。思わず吹き出してしまい、また目が合った。
























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