「どんな様子だった? なんかおかしい事はなかった?」
きっとこの子は知っているはずだ。だが、私を落ち着かさせるためにあえてこんな聞き方をしているのだろう。
「踏切の前にカカシが刺さってた。それで・・・」
「それで?」
「みんな、笑ってるの。微笑むとか、面白くて笑ってるんじゃない。もっとこう、ぐにゃって口元をまげて。電車に乗ってる人も、踏切待ってる人もみんな・・・」
今度は何も言わず、ミコは頷く。
「それで今日、渚・・・友達と一緒に電車に乗ってたんだけど、急に笑えって言われて。でも、わたし笑えなかった。そしたら・・・ねえ月待さん、これっていったい何なの?」
そう言い終えると、ミコは静かに息を吐いた。
「本郷さんって、ここら辺の出身じゃないよね」
この子はどこまでお見通しなのだろう。私はコクリと頷く。
「そのカカシについて教えてあげたいんだけど、その前にお父さんが書いた本、ちょっと見してくんない?」
「お父さんの本・・・?」
私が答えるやいなや、ミコの後ろの障子がスーッと開いて、母が部屋の中に入ってきた。
「え、お母さん」
「ミコちゃんと言ったわね。これよ」
母がミコに色あせた本を手渡す。
「これって・・・」
『 ―――曲神(くまがみ)のひとびと――― 本郷公孝 』
表紙にはそう書かれている。父の遺作だった。
「ミコちゃん、和葉を・・・頼むわね」
母がこの大切な本を見ず知らずの女の子にあっさりと手渡してしまったことに、私は驚きを隠せなかった。
「わかりました」
ミコは落ち着いた声でそう答えると、さっそく父の本を開き始めた。この本は母がずっと戸棚にしまいこんでいたものだ。これまで何度か表紙を目にしたことはあったが、中を見るのは初めてになる。
サッ、サッと次々にページがめくられていく。紙の擦れる乾いた音だけが、この静寂な空間に唯一発せられる。と、あるページでミコがピタリとその手を止めた。
「あった」
そこには『エミカカシ』と記載されている。
「えみかかし・・・?」
「笑うカカシとかいてエミカカシ。まあ、笑っているのはカカシじゃなくて人の方なんだけど」
























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