疎水を流れる水の音が耳を心地よくなでていく。
「ま、なにはともあれ一件落着。よかったね、あたしと同じ学校で」
「ほんとだよ、しかもほぼ初対面なのにこんな・・・」
と言いかけたところで、学校でのあのやり取りを思い出す。
「そういえばミコ、俺に『このままだと死ぬよ』っていったよな?」
「え、うん。言ったけど」
それがどうかしたのかとミコが首を傾げる。
「こう言っちゃ悪いが、熊手の付喪神なんかが取り憑いて死ぬことなんてあるのか? 俺もオカルト好きだから付喪神がどんなものかは知っている。でも、人の命を奪い取るような、そんな怖い存在とは思えないんだよ」
俺の問いにミコがニヤリと笑って答えた。
「よく付喪神は精霊や妖怪の類で神様とは違う、なんていうけれど重要なのは信心。要は信じる人間が多ければ多いほどその力は増すのよ」
日本人の多くは思想的、文化的に無意識下でアニミズムが根付いている。だから付喪神と言えども、その力を侮ることは出来ないとミコは続けた。
「日本の神様がもし人を殺そうと思ったら、じわじわ体調を悪化させて次第に・・・なんて回りくどいことはしない。一瞬で、ポックリよ」
俺はその言葉に戦慄しながらも、思わず想像せずにはいられなかった。もしあの時、ミコに神社まで呼び出されてなかったら・・・俺の身に一体、何が起こっていたんだろうか。黙りこくる俺をミコは一瞥した。
「あのさ、今日のこともう忘れた方がいいよ。付喪神を祓ったからといって、まだ君の中にはそいつがいた穴がぽっかり空いたままなんだから」
ミコの瞳に、あの人を射竦めるような鋭い光が宿る。
「あなたには見えないだけで、居場所がないやつらってそこら辺にウヨウヨいる。そういう奴らは、いつでもあなたのその隙間を狙っている」
そう言い残して、ミコは山の方へと歩き始めた。辺りはすっかり暗くなり始めている。
「ここでいいよ、じゃ」
右手を挙げて、彼女は立ち去った。緋色の西日が山の稜線に滲むようにして沈んでいく。その中で彼女の影がいつまでも揺れていた。
























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