心の中でそう念じていると、じんわり胸の奥が熱くなってくるのを感じた。目を閉じているのに、視界が乳白色の穏やかな色で包まれていく。次第に、頭の中に白黒映画のようなぼんやりとした映像が流れ始めた。
〇
ここはどこだろう。縁日かな。屋台がひしめく境内を、着物を着た女性といがぐり頭の少年が二人、手を繋いで歩いているのが見える。どうやら親子のようだ。大勢の人が行き交う中、二人はいろんな店を覗き込むようにして、ゆっくり、ゆっくり進んでゆく。
すると、ある屋台の前で、少年が母親の手を引いて立ち止まった。その屋台には、達磨やら扇やらといった縁起物がたくさん置かれていた。少年はおかめのお面や鯛の装飾が施された熊手を指さして何かを言っている。どうやらあれが欲しいみたいだ。
最初は首を横に振って、ダメよと言っていた母親もとうとう根負けしたのか、店主からその熊手を買って、少年に手渡す。少年はその熊手を片手に飛ぶように喜ぶと、母親と手を繋いで再び縁日の中を歩き始めた――――――
「あぁそうか」
新井のじいさんの声が聞こえた途端、視界が暗転し、俺は目を開けることができた。目の前に廃品の山がある。急に現実に戻されたような感覚だった。
「この熊手は、あん時ンやつかぁ」
じいさんは目を赤くしながら誰に言うとでもなく、しみじみとそう呟いた。
「この熊手は思い出してほしかったのね」
ミコの言葉に俺は静かにうなずいた。
〇
店を後にしたときには、夕日がすっかり西の空を赤く染めていた。ミコと二人、並んで小径を歩いていく。
「今日は、ありがとうな」
「いいよ。私が好きでやったことだし」
「・・・やさしいんだな」






















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