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ヒトコワ

よなかさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

最後の「ごめんなさい」
短編 2025/10/30 06:14 2,135view

事故に遭ったのは、中二の九月だった。
といっても大したことはなくて、自転車ごと転んだだけだ。頭をちょっと打って、数針縫った。
その日の記憶は、途中からすっぽり抜けている。

「すげぇ謝ってたらしいな」

クラスメイトに言われた。
いや、俺は何も覚えていない。
「何に?」と聞くと、曖昧に笑って、「いや、知らね」と言われた。

その頃から、同じ夢を見るようになった。

白い廊下。制服姿の俺。
自分が自分を見ている視点。

俺がただ立ち尽くし、泣きながら繰り返す。

「……ごめんなさい……ごめんなさい……」

何に対して謝っているのか分からない。
でも、夢の中の俺は、喉が潰れるほど泣いて謝っている。

病院で医者に話すと、軽い記憶喪失だろうと言われた。
「ショック映像を再生しているだけで、すぐ消えるよ」
そう言われても、夢は止まらなかった。

夢の俺は、日ごとに傷だらけになっていく。
前髪の奥から血が垂れ、片腕を変な角度に曲げたまま泣いている。
ぼそぼそ言っていた口元が、ある日、はっきりと動いた。

「あの時、お前だったんだろ?」

目が覚めた。心臓が痛いほど脈打っていた。
俺は何に“ごめんなさい”と言っていた?

事故のことを、友達に詳しく聞いた。
俺は歩行者とぶつかったらしい。
その歩行者は転んで、少し怪我をした。
だが、俺の記憶には一切ない。

「相手のこと知ってる?」
「……女の子だったよ」

名前を聞こうとしたら、友達は途中でやめた。
「なんか……思い出せないんだよな」

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