また聞こえてきた、大家さんの、娘を案じるような優しい声。
そして、その後に続く、重く、引きずるような足音。
僕は、もしかしたらあの音は、大家さんの足音だったのかもしれない、と考えた。大家さんは、一階で何か作業をしている。しかし、なぜ?
すると、僕の目には、信じられない光景が映った。
大家さんは、部屋の中央で、大きなドラム缶をかき混ぜていた。
「あら、本当に、この子ったら……」
そして、ドラム缶から、何かを引きずり出した。
その動作は、まるで、子供の汚れた服を洗っている母親のようだった。
「これで、きれいになるわ……」
「あら……」
大家さんが、こちらに顔を向けた。
僕は慌てて部屋に戻り、鍵をかけた。
あのダンボールの中の服は、いったい、どこで、どうやって汚されたのか。
そして、あの泥水のような液体は、いったい何なのか。
そして、また、大家さんの声が聞こえてきた。
「あら、この子ったら……」
今度は、僕の部屋のドアの前から、その声が聞こえてきた。
「また、汚して……」
僕の背後から、冷たい何かが、ゆっくりと迫ってくる気配がした。
僕は、背後の気配から逃れるように、体を丸めた。
そして、僕は、自分の部屋の隅に置かれた、もう一つのダンボール箱を見つけた。
その箱には、泥まみれの、古びた、子供の服が、詰め込まれていた。
僕は、その箱から、小さな写真を見つけた。
写真には、大家さんと、幼い女の子が、写っていた。
その女の子は、写真の中で、泥まみれの服を着て、笑顔を浮かべていた。
「ガタン……ガタン……」
重く、引きずるような足音が、部屋のドアの向こうから聞こえてきた。
僕は、ただひたすらに、神に祈るしかなかった。
「おかあさん、あたしの、よごれたふく、きれいに、してくれた?」
ドアの向こうから聞こえてくる、大家さんの声が、徐々に、幼い女の子の声に変わっていく。






















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