俺は趣味で写真を撮るのが好きで、SNSにもよく投稿している。風景写真がメインだが、たまに街角で見かけた面白いオブジェや、気になった看板なんかも撮る。
ある時、いつものように写真をアップロードすると、すぐに「いいね」がついた。見慣れないアカウントだったが、アイコンは普通の女性で、特に気にも留めなかった。それから、俺が投稿するたびに、その「サクラ」と名乗るアカウントが必ず一番に「いいね」を押すようになった。
最初は「熱心なファンがいるんだな」と喜んでいた。コメントも丁寧で、俺の写真の構図や色使いを具体的に褒めてくれる。彼女とのやり取りは、次第に俺の創作意欲を掻き立てるようになった。
そんなある日、俺が投稿した写真が突然消えた。風景写真だったが、アップロードしてから数時間後には、自分の投稿一覧から消えていたのだ。おかしいなと思いながら再投稿すると、またすぐに「いいね」がついた。サクラからだった。
「素敵な写真ですね。でも、この写真は消した方がいいと思います」
なぜか、彼女からのコメントには、写真の具体的な内容は書かれていなかった。不審に思いながらも、何となく従う気になって、言われた通りにその投稿を消した。すると、サクラは「ありがとう」とだけ返信してきた。
それから、この奇妙な出来事が繰り返されるようになった。俺が投稿した写真が、数時間後に消える。そして、消える直前か直後に、サクラから「この写真は消した方がいい」というコメントが届くのだ。
ある時、俺はふと思いついて、消えた写真の元データを改めて確認してみた。すると、そこには信じられないものが写っていた。
風景の中に、ほんの一瞬、誰かの顔が写り込んでいる。写真の隅で、こっちをじっと見つめている女の顔。それは、サクラのアイコンの女性にそっくりだった。
恐怖で震えながら、俺は全ての写真を見直した。すると、消えた写真のほとんどに、サクラに似た女性の顔が写り込んでいたのだ。小さく、ぼやけていて、肉眼ではほとんど判別できないほどに。
ある日、サクラから初めてダイレクトメッセージが届いた。
「今日の写真、とっても素敵でした。あの後、すぐに消してくれて、ありがとう」
そのメッセージを読んだ俺は、凍りついた。
今日、俺は写真を撮っていない。
数日後、俺は散歩中に公園のベンチで休んでいた。すると、見知らぬ女性が隣に座った。
「こんにちは。いつも素敵な写真を撮っていますね」
俺がはっと顔を向けると、彼女は静かに微笑んだ。その顔は、あの写真の隅に写っていた女の顔だった。
「私のことを撮ってくれて、ありがとう」
サクラは、それから何も言わず、ただじっと俺を見つめ続けた。その視線から、俺は逃げ出すことができなかった。俺のSNSには、その日を境に、新しい写真が投稿されることはなくなった。
























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