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ヒトコワ

しゃくたんさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

午前三時の洗濯物
短編 2025/09/19 10:48 1,827view

古いアパートの2階。夜はほとんど物音一つしない静かな場所だった。唯一の騒音といえば、一階に住む大家さんの洗濯機が回る音。夜中に洗濯する人なんて珍しいなと思っていたけれど、それも毎日午前3時に、必ず止まるという奇妙な習性があった。

ある日、深夜までゲームをしていた僕は、ふと耳を澄ませた。ああ、今日も聞こえる。一階から聞こえる、重く、うねるような洗濯機の音。

そんなことを思いながら、僕は寝床についた。ところが、その日を境に、大家さんの洗濯機は回らなくなった。

変なものを見たとか、怖いことが起きたというわけではない。ただ、毎日聞いていた音が、ぴたりと途絶えただけ。でも、それがかえって不気味だった。

心配になった僕は、大家さんに聞いてみた。

「あ、すみません。最近、洗濯機の音聞こえないですけど、大丈夫ですか?」

すると、大家さんは妙に寂しそうな顔をして答えた。

「ああ、あれかい。壊れたんじゃないんだよ。あれは、私の娘の洗濯物なんだ」

大家さんは、僕を気の毒そうに見つめて続けた。

「娘はね、とても潔癖症で、毎日必ず午前3時に、一週間分の洗濯物を洗ってたの。でも、娘がね、先月、急に出て行っちゃったんだ。だから、もう誰も洗濯する人がいなくてね」

しかし、その夜、僕は再び深夜の静寂の中にいた。いつものように、ゲームを終えて寝床につこうとしたその時、耳を疑うような音が聞こえてきた。

「ガタン……ガタン……」

「大家さんかな? でも、なんだろう……」

僕は恐ろしくなって、自室のドアに鍵をかけた。

翌朝、大家さんの部屋の前に、僕は見慣れない大きなダンボール箱が置かれているのを見つけた。

「これは……」

ダンボールには、たくさんの衣類が詰められていた。大家さんの部屋から出てきたものだろうか。

「大家さん、何してるんだろう……」

僕は、再び一階のドアの隙間から耳を澄ませた。

すると、部屋の中から、大家さんの独り言のような声が聞こえてきた。

そして、僕は、大家さんの声に続くように聞こえてきた、もう一つの音に気づいた。

僕の部屋の前に置かれたダンボール箱。その中には、今日僕が着ていた服が、泥まみれになって詰め込まれていた。

血の気が引いた。あのダンボールは、僕が部屋に鍵をかけた後、いったい誰が、どうやって置いたのか? そして、なぜ僕の服が、こんなに汚れている?

恐怖に震えながら、僕は大家さんの言葉を思い出していた。

「あれは、私の娘の洗濯物なんだ」

大家さんは、もう洗濯機を回していない。でも、あの不気味な音は、確かに大家さんの部屋から聞こえてきていた。

その夜、午前3時。再びあの「ガタン、ガタン」という音が、一階から聞こえてきた。僕は息を殺し、耳を澄ませた。

「あら、こんなに汚して……本当に、この子ったら……」

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