「この間の土曜日に”△△兄ちゃん”がうちに泊まりに来たんだけど、朝になったらあたしの隣で寝てた。あたしは裸にされてて、”△△兄ちゃん”はあたしが履いてたパンツを咥えて寝てた。」
などと、卑猥な作り話も多かった。
「先週の日曜日に、あたし天国(天界)に行ってきたの。そしたら〇〇くんのお墓があったわ。〇〇くん、『23歳の時に交通事故に遭って死亡した』と墓石に書いてあったかな。他の大天使のひとも、『〇〇くん、死んだときには、電柱のてっぺんにも届くような大きな悪魔の羽根が背中に生えていたのよ』と言ってたよ。」
と、不快で気持ち悪い話もよくされた。
俺が下校の折にXから逃げても、Xは無連絡のまま勝手に俺の家に来ることも多かった。俺がわざと玄関のドアノブを掴んだまま(その当時ドアチェーンがなかった)「遊べない」と伝えると、Xはなんとその絹のように美しい頬をドアと柱の間に挟み、「入れてよ」と言ってほほ笑んだ。
ここまでひどいことを言われたり、されたりしているのだから、親にもっと真剣に相談した方がいいと思った方もいらっしゃるだろう。だが、俺はそうしなかった。それはXに、
「この話は誰にも言ったらあかんよ。すごい呪いをかけられるよ。寿命が縮むよ。」
と、脅され口止めされていたからだ。
Xにされたことは、どれもこれも悍ましいことばかりだった。その中で、とうとう俺を限界点に至らしめたのが、俺の家族は本当の家族ではないと言われたことだ。俺の人間の家族は地上におけるかりそめの家族であり、俺と同じ天使の遺伝子を持つ家族は天界にいるというのだ。いつも優しく接してくれる父方の祖父母も、親兄弟も俺とは魂がつながっていないと告げられた。
「だから、〇〇くんの今の母さんは本当は他人なのよ。信じちゃだめよ。ねえ、お願いだから〇〇くん、あんたの母さんの下着を盗んできてよ。」
と、要求された。
勿論、俺は母親の下着も自分のも一切Xに渡さなかった。そんなことをするくらいなら、呪われたり学校で恥をかいたりする方がよっぽどマシだ。Xには
「なんでくれないの?」
と、文句を言われた。
頭に血がのぼった俺は、
「いい加減にしろ!そんなもの、渡せるはずがないわ!」
と、怒鳴りつけてやった。
信じられない方もいらっしゃるかもしれないが、これは実話なのだ。Xの悪事は枚挙にいとまがなく、ここでは書ききれないくらいだ。小学4年生か5年生の子どもが、病的な虚言癖と凶悪な死刑囚にも匹敵するほどの悪知恵を持ち、涼しい顔で人を脅すのだ。
やがて俺にもXと対峙する時が来た。平凡な小学生の隠し事など、すぐにバレてしまうのがオチだ。俺の目ざといキョウダイがXからの手紙の束を見つけ、俺の留守中に母親に見せたのだ。
キョウダイと母に背中を押されたこともあり、俺は気弱ながらにとうとう覚悟を決めた。そして、職員室で頼りにならない担任教師に、Xからの嫌がらせの手紙の一部を見せてやった。
「Xさんにもらった手紙はまだあります。全部自宅に保管してあります。」
Xもその場にいたが、れっきとした証拠があるので、観念せざるをえなかったようだ。俺はXへの反撃の機会をうかがい、Xから渡された手紙の一部をいつも隠し持っていたのだ。
Xのお得意の「あたしそんなこと言ってないよ。やってないよ」も、俺の提出した証拠の前では無駄そのものだった。


























花蘇芳(沈丁花)です。Xにされたことを付け加えました。あまりにひどい内容だったので、これまで記憶の奥深くに沈めていました。Xがいかに常軌を逸した子どもだったのかをもっと書きたいと思い、勇気を出して加筆しました。これまで読んでいただいた731名の皆さま、大変申し訳ありませんでした。いつも謝ってばかりですみません。ごめんなさい。
花蘇芳(沈丁花)です。一部、文のつながりが分かりにくい箇所がありましたので、訂正しました。Xと対峙する覚悟を決められたのは、決して自分の怒りの力だけではなかったので、もっと詳細に描写しました。
Xマジで処刑どころか地獄行きだろABCDEFとかも
花蘇芳(沈丁花)です。コメントありがとうございます。Xには放課後さんざんにまつわりつかれましたが、「学校では話しかけないで」と言われていました。XやQ、他のいじめっ子たちにされたことを全て書いていたらただの愚痴になってしまうので、特にひどかったことだけを書きました。あまりに悪質すぎて、書けなかったこともあります。この作品で「本当に恐ろしいのは生きた人間の所業である」であることを伝えたかったのですが、ストレートに言いますと。不完全燃焼感が残りました。
花蘇芳(沈丁花)です。一部、加筆をしました。