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不思議体験

モンタージュさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

台風後、帰路の闇
短編 2025/08/22 15:09 1,059view

これは私が祖父から聞いた話です。

昭和三十三年。大型の台風が直撃し、川は氾濫、町は泥と瓦礫に呑まれた。  

当時は堤防の補強も、避難所の整備もほとんどなく、警報もラジオ頼み。  
夜中に水が押し寄せても、逃げ遅れる人が多かったという。  

町並みも今とは違い、木造家屋が肩を寄せ合い、細い路地が入り組んでいた。  
電柱は低く、街灯も少ない。夜は本当に闇だった。  

田んぼには折れた電柱や家財に混じって、人の手足が浮かび、風が止んでも腐臭だけが残っていたという。

祖父はその翌日、仕事が終わり、いつものように家に帰ろうと車を走らせていた。

 
道はまだ冠水が引ききらず、両脇の田んぼは濁った水面を光らせている。
 
前方に、ヘッドライトを点けた一台の黒いセダンが、右折のために停まっていた。  
祖父は減速し、ライトをパッと消して合図を送った。「どうぞ」──そう心の中で促す。

セダンはゆっくりと動き出し、ぬかるんだ交差点へと進み出た。  
だが、次の瞬間──  ふっと、闇に吸い込まれるように、その車は跡形もなく消えた。

祖父はブレーキを踏み込み、しばらく呆然とハンドルを握ったまま動けなかった。  

──  耳の奥で、まだ水の流れる音がしている。  

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関連タグ: #事故物件#川
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