俺は目を細めた。
「……え?」
再び母の声。
「かずま、お姉ちゃんに貸してあげなさい」
画面の中の俺は、笑って頷き、火のついた花火を差し出していた。
顔も動きも、自分に間違いない。
でも——名前だけが、違っていた。
「なあ、母さん。今の……俺のこと、なんて呼んでた?」
「え、何? “かずま”って言った? ああ、あれね、小さい頃ふざけてそう呼んでたことあったかも」
「何回も呼んでたんだけど」
「ビデオだし、そう聞こえるだけじゃない?」
母はそう言って、笑って台所へ立っていった。
俺はもう一度、あのビデオを見返したくなった。
気になって仕方なかった。
リモコンで巻き戻そうとしたが、操作が効かない。
トレイを開けてみると、なぜかディスクが入っていなかった。
おかしいと思ってテレビ台の下を探してみたが、さっき見たはずのDVDが、どこにも見当たらない。
押し入れを探すことにした。
古い玩具やアルバムの奥に、記憶のなかにあった小さな日記帳を見つけた。
表紙にクレヨンで「ゆうや」と書かれている。俺の子ども時代の筆跡だ。
ページをめくると、「おじいちゃんとあそんだ」「きょうはカレー」といった他愛のない日記が続いていた。
けれど、途中で空気が変わる。
ぼくの なまえは かずまです
そこから先の数ページだけ、文字が明らかにおかしかった。
たどたどしい字で、こう書かれていた。
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