これは、つい最近あった中学の同窓会の二次会でのことです。
一次会では十数人ほど集まっていたのですが、やはりそれぞれの生活があるせいか、時間が経つにつれて少しずつ帰る人が出てきて、最後には三人だけが残っていました。
わたしと、村瀬(仮名)、そして佐々木さん(仮名)。
当時はみなクラスの委員で、文化祭の準備や係の仕事なんかで一緒に過ごすことが多かった面々です。とはいえ、特別仲が良かったというわけでもないのに、なぜか居心地がよかった三人組でした。
誰かが特別に盛り上げるわけでもなく、間が空けばそれはそれで許されるような、静かな安心感がありました。
久しぶりに集まっても、その空気は変わっていなくて――最初は近況報告なんかをぽつぽつと話しながら、お酒を少しずつ飲んでいました。
「佐々木さんって、今どこに住んでるの?」
「新小岩のほう。通勤はまあまあ大変かな」
「へえー、俺の職場、そっち寄りだわ。駅前のラーメン屋、まだある?」
そんなふうに、誰も大きな声を出さず、少しずつ昔を思い出すように話していました。
中学のときの話題になると、思い出は自然と膨らんでいきました。
文化祭のとき、全員でひとつの劇をやったこと。委員会で意見が割れて、先生を困らせたこと。そうやってぽろぽろと話していくうちに、村瀬がふと、少しだけ真面目な顔をして口を開きました。
「そういえば佐々木さんって、1年生の途中から転校してきたよね。けっこう半端な時期だったから、ずっと気になってたんだけど……来る前って、どこに住んでたの?」
その瞬間、急に、空気が少しだけ変わりました。
本人にとって触れられたくない話だったのでは、とわたしは一瞬ひやっとしたのですが――佐々木さんは「うーん」と軽く唸るようにして、少しだけ視線を落としました。
「……ちょっと変なところというか、不思議なことがあって、こっちに引っ越してきたんだよね」
その言い方が、あまりにも自然で淡々としていたので、逆に妙に印象に残りました。
そして、そのまま佐々木さんはグラスを置いて、静かに語りはじめました。
* * *
私が昔住んでいたのは、町と呼ぶには小さすぎるが、村と呼ぶには半端に整備されたような、そんな不思議な場所だった。
商店街と役所と、駅と――あとは、どこまでも同じ風景の、のっぺりした住宅地。人の気配はあったけど、活気はなく、音も少ない。そんな土地で、母と父と、父方の祖母と私の4人で、ずっと静かに暮らしていた。
遊びもあまりない環境で、暇を持てあます子供たちのあいだでよく話題にのぼっていたのが、“怪獣おじさん”と呼ばれてる人だった。
いつも白い作務衣みたいなのを着て、独り言をつぶやきながら毎日同じ時間に同じ道を歩いてた。
「ゴオ……ゴオ……」「おわった、おわった」みたいな、変な擬音?みたいなことばかり呟いていた。子どもたちは、意味も分からず、彼を「怪獣おじさん」と呼んでいた。
なんで怪獣おじさんって呼ばれていたのかはわからない。みんながそう呼んでいたから、私も呼んでいた。当時は、まったく気にしていなかった。
でも――今思えば、少し変だった。
町の大人たちは、みんな妙に、怪獣おじさんに対して優しかった。
話しかけるでもなく、近寄るでもなく、でも、すれ違うときに頭を下げたり、目を伏せたり。優しかったというよりかは、まるで――なにか“上位のもの”に対する扱いみたいな、そんな感じだった気がする。
小学校の頃は、まわりのみんなが怪獣おじさんのことをからかっていた。
私は、そういうことはよくないと、当時からなんとなく思っていたから、からかいには参加しなかった。けれど、クラスの男子がからかっているところを大人に見られて、こっぴどく叱られている……なんて様子は、なんとなく記憶に残っている。























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