大学生の頃、大学間サークルで知り合った女性の方とお付き合いしていました。
彼女は笑顔がとても印象的で、誰に対しても感じよく接する、まわりから好かれる子だったと思います。
彼女の笑っていない顔は、一度も見た記憶がありません。
どんな話をしていても、泣きそうなときですら、彼女はうっすら笑っていました。当時はただ、「穏やかでいい子だな」としか思っていませんでした。
そんな、笑顔の絶えない彼女の実家に行ったときの話です。
* * *
「そろそろ、うちの親に会ってみない?」
付き合いはじめて、半年ほど経ったある日。彼女のほうから提案されたわたしは、特に深い意味は考えず、軽い気持ちで了承しました。
聞くところによると、彼女の実家は、電車とバスを乗り継いだ山間の集落。不便ではありましたが、空気がとても澄んでいて、どこか旅行に来たような気分になったことを覚えています。
けれど……家が見えてきた瞬間、空気が変わりました。
木造の平屋で、古びてはいるものの、妙に整っていて、手入れは行き届いている。風で砂利一つ動かないその家は、まるで写真の中にあるようでした。
玄関の前に立つと、彼女はノックもチャイムも鳴らさず、そっとドアを開けて「ただいまー……」と小さく言います。返事はありませんでしたが、代わりに奥から誰かの気配がすうっと近づいてきたのを感じました。
現れたのは、彼女の母親でした。
「まあまあ……来てくれたのねえ」
そう言いながら出迎えてくれた彼女の母は、口元が極端に引きつっていて、目がまったく笑っていなかったのです。
まるで、お面が張り付いたような笑顔。口角だけがぐいっと上がっていて、喜んでいるようには見えない、“つくりもの”の笑顔でした。
正直、この時点でだいぶ怖かったのですが……流石にここで帰ったら失礼すぎるし……そんなことを思いながら、家にあがりました。
リビングに通されると、すでに家族が揃っていました。
しかし……父親、弟、祖母……そこにいる誰もが、母親とまったく同じ笑顔を浮かべているのです。
動かず、音もなく、ただ笑顔を作っています。
わたしが「こんにちは……」と声をかけると、全員が、まるで合図されたかのように、ほんの一瞬ずれてから
「「「こんにちは」」」
と返してきました。
その瞬間、背中を変なものがぞわっと這い上がっていくような感覚がありましたが、なんとか押し殺して、平静を保とうとしたことを覚えています。
彼女はいたって普通の調子で「家族です」と紹介してくれましたが、誰一人としてうなずくわけでもなく、ただ、張り付いたような笑顔のままこちらを見つめたままです。
食卓にはすでに料理が並んでいます。
焼き魚、味噌汁、漬物――和食らしい内容でしたが、どれもひとくち、ふたくちだけ箸をつけたような食べかけの状態で、湯気も立っておらず、完全に冷めきっていました。
「……おいしそうですね」
ぎこちなくなりつつも、そう声をかけると、「そうでしょう? みんな笑顔で食べるのよ」と、奥に座っている祖母が小さな声で呟きます。
























こわ、、、、