その直後。
これまでピクリとも動かなかった母親の肩が震え、笑いはじめました。声は出ているような動きなのに、笑い声は聞こえない。喉を震わせているのに、音だけがまったく出ていません。
それに呼応するように、他の家族も順番に笑い出しました。
口元だけが、カカカ……と音を立てそうな勢いで、でも音は立てずに、痙攣するように動き、笑う素振りをしています。
彼女はそれを見て、微笑みながら「うち、ちょっと変わってるでしょ?」と問いかけましたが……その瞬間、わたしは心の中で「これはダメだ」と確信しました。
言葉が通じないとか、常識が違うとか、そういった次元ではない――人間のふりをしている“なにか”の中に混じってしまったような感覚。根本的に異なる存在を前にしている、という理解が、突然襲ってきたのです。
「すみません、帰ります」
危機感をおぼえたわたしは、内心びくびくしながらもそう言って、その場から立ち上がりましたが……立ち去ろうとするわたしを、誰も止めませんでした。
ただ、玄関を出る直前、背中越しに誰かがぽつりと呟いたのです。
「笑っているのに」
わたしは、振り返らずに、ただ走ってその場から逃げました。
* * *
それ以来、彼女とは連絡を取っていません。
何度か着信がありましたが、出ることができませんでした。しばらくは、思い出すことすらも怖かったのです。記憶を封印して、あのサークルにも顔を出さずに、大学生活をただ惰性で過ごしていました。
でも、今になって思い返すと……あれが本当に異常なことだったのかどうか……正直なところ、よくわかりません。誰かが怒鳴ったわけでもないし、責められたわけでもありません。みんな、ただ笑っていただけだったのですから。
笑っている人を、どうこう言う理由なんてありません。今思うと、無理に否定することもなかったのかもしれません。だから、もういいのです。そういうことは、もうどうでもいいのかもしれません。
そう考えているうちに、不思議と、口角が緩んでしまいました。
























こわ、、、、