仕事人のＡさん

Ｙには仕事上で、とても扱いにくい得意先があった。
業界の超大手・外資系のＳ社の担当者のＢだ。
大手の得意先であることをかさに着て、やりたいほうだい。
Ｂ自身の適当な仕事のツケを、Ｙのところに押し付けてばかり。
急な発注やキャンセルは茶飯事。深夜早朝、休日でも連絡してくる。
ひどいときには納期まで数日かかる商品を今日中に納品しろ、と言ってきて、
なんとか手配すると、やはりいらない、持って帰れ、などということもあった。
また勝手にヒステリーをおこして、仕事にかこつけて、
Ｙや仕事関係者をいわれなく人間的に否定する暴言までも吐いたりした。
Ｙも大変だったが、実際に現場で物を運ぶ運送屋さん達なども

タマッタものではない。
運賃を上乗せされても2度とＳ社への配送はしない、
という業者ばかりが増えていった。

そんな状況で、Ａさんは無理を聞いて仕事を受けてくれた。
急な依頼で変更もあったが着実に対応してくれた。
Ａさんも行動の予想がしがたいＢには苦労をしたようだが、
それでも仕事は実行してくれた。
本当に、ＡさんがいなければＹだけではどうにもならなかった。

Ａさんの船で海に行くことは何度も実行しようとしたのだが、
Ｂの都合に合わせざるを得ず、なかなかチャンスが来なかった。

だが二日前に流れが変わった。
Ｂが行方不明になったために。
詳細は世間には不明だが、Ｂは突然に姿を消してしまった。
問題のある人物ではあったので、警察も事件事故など
色々な面から捜査しているらしいが、今のところ
何も手掛かりは攫めていないようだ。
なにはともあれ、Ｓ社の後任が決まるまでは仕事にならないし、
今日明日と休暇をとり、ＹはＡさんと釣りに来た。
船釣りは明日にしたほうが確実なので、今日のところはあせらず静かに
池で鮒釣りでもしよう、となったのだ。
あとはマトモな人物が後任になることを祈るばかりだ。