そう言われて改めて部屋を見回すと確かに、こんなに沢山あるのに手形は全て左手だけのようだった。
「あ〜マジだ。すげぇ、よく気付いたな」
「だろ?変じゃね。一つくらい右手があってもよさそうなのに」
「だよな、なんでだろうな」
「右腕は切断されたの」
部屋のどこかからくぐもった女の声がした。
直後に奥のクローゼットからガタガタと物音がする。
俺達は大声を上げながら部屋を飛び出した。
部屋を出る直前、一瞬振り返るとクローゼットから全身赤く染まった人の形のした得体の知れない何かが、ゆっくりと這い出てくるのが視界に入った。
二人共我先にと階段を駆け下りて玄関を飛び出しチャリに跨がってひたすら走り続ける。あんなガチの怪奇現象が起きるなんて想定外で、俺達はとにかくあの家から離れることしか頭に無かった。途中でお互い自宅のある別々の方向へ二手に分かれる。
茜色に染まった黄昏の中を無我夢中で駆け抜けて、気付くと俺は汗だくになり息切らせながら自宅の前にいた。
こんな時に限って家族はまだ誰も帰ってきていない。
家に上がり一人リビングで冷たい麦茶を飲んで一息つき少し落ち着いた所で、俺はあの部屋の写真を何枚も取っていたことを思い出した。
あんなの手元に残しておけやしない。
急いで画像を消去しようと操作するがしかし
“消去に失敗しました やり直してください”
と表示されて何故か削除できない。
原因が分からず何度やり直しても同様で背筋に冷たい物が走った。その時。
ギシッ・・・ギシッ・・・と廊下から足音が聞こえた。
誰か帰ってきたのか?と思ったがすぐにそれを打ち消す。こんな奇妙な歩き方をするわけない。
ギシッ・・・ギギッ・・・ギッギッギッ
足音は不規則に乱れてまるで酩酊しているかのようで、だけどゆっくり確実にリビングへと近づいてきている。
血の気が引き、心臓が早鐘を打つ。
写真を撮った事を激しく後悔するが時すでに遅し。息を潜め全身を凍りつかせ、廊下へ続くドアから視線を外せない。
そして、足音はついにリビングのドアの前まで来たが案に相違してそのまま通り過ぎ、奥の方へ消えていった。
拍子抜けして少し気を緩めた直後、
「もうおしまい」
突然耳元であの女の声が囁いて、そこで意識が飛んだ。
真っ暗なリビングで目を覚ました時、時刻は19時を過ぎていた。
母親から(遅くなるから夕飯は昨日の残りを適当に食べといて)とラインが来ている。
明かりを点け、周囲を怖々確認するが何も異常は見当たらなかった。
あの女はカズキの所にも現れたのだろうか?
連絡を取ってみることにした。
あいつの安否も気になったし何より一人でいるのが心細くて誰かの声が聞きたかった。























こわ