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心霊

てんさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

先輩
長編 2025/04/08 17:03 2,967view
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自転車はA先輩が乗っている。
その後ろに女性が見えた。二人乗り。
一見すると何の違和感もない友人同士かカップルに見える。しかし私には異様に感じていた。

A先輩と二人乗りしていたのは髪の長い女性のようだった。つき始めた街頭に照らされた顔は長い前髪で見えないが、その隙間から見えた肌は生きているとは思えないほど青白い。

先輩の首に絡みつくように腕を伸ばし、自転車をこぎ続ける彼にしっかりとしがみついている。
自転車をこぐたびに女性の体も上下に動き、長い髪が靡いて顔が見えた。
青白い顔に目は穴が空いているかのように真っ黒く、白目は見えず、とても人のようには見えなかった。
A先輩は全くその女性に気づいていない様子で自転車をこぎ続けている。

私は恐怖のあまり全身を震わせ、汗が吹き出ていた。
見たくないのにその光景から目を離せない。

硬直したまま足も動かずに佇んでいた。

A先輩が自転車で通り過ぎ、ゆっくりとその姿を目で追う。

髪の長い女性はA先輩の体に全身でしがみついているようだった。
まるでおぶさっているかにように。
一月前に見た酔い潰れていたと思った女性と全く同じ姿で。

遠ざかる自転車を見ながら、私はその場に立ち尽くすしかなかった。

それから数年後、私は大学時代に知り合った夫と平凡な日々を過ごしていた。

あの出来事は夢だったのかと考えるほど曖昧なものになっている。
バイトで疲れた脳がバグった見間違い。
そう言い聞かせることで記憶からあの時の恐怖を消し去りたかったのかもしれない。

結婚して少しした後、新居へと引っ越し準備をしている最中、アルバムを見つけた。

「これ、あなたのアルバムだよね? ちょっと見てもいい?」
「あー、それ大学の時のだよ」

アルバムは大学時代にサークルで出かけた時の写真のようだった。
夫を入れた複数の男女が楽しそうに笑みを浮かべて映っている。
そのアルバムを順々に見ていくと、私は一人の女性に目がとまり、はっと息を呑んだ。
そして思い出したのは、あの日の光景。
先輩の首元に絡みついたあの青い白い腕と穴の空いたような目。

「……ねぇ、この人……」
「友達?」
「ううん。見たことあるって言うか……」
「この子さ、一年の冬に自殺したんだよ」

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