自分が中学生の時の話
冬休み、家族で旅行に行った。屋上にプールがあるホテルに泊まった。冬とはいえ温水プールだったので温かく楽しかった。その後、温泉に入ることになったが、父親が忘れ物を取りに行ってしまったので、待っている間、そこにあった卓球をする事にした。その頃、自分は保体の授業で卓球をしていたため母親や弟に圧勝し、気分が高まっていた。すると、そこにいた少年(小学四年生)くらいが「ボクと一緒に卓球しようよ」と誘ってきた。人見知りでクラスの女子はもちろん男子とも話すことが出来なかった自分だが目をキラキラさせて誘ってくる少年を断ることは出来なかった。最初は手加減していた。手加減と言っても優しくほわんと打つ程度だ。少年は始めたてのように空振りをしたり、変なところに飛んで行ってしまっていた。しかし途中からまるで人が変わったかのように強くなった。保体で少しやっただけとはいえ、卓球部と戦えるくらいは強かった。結果はぼろ負け。自分は少年に「凄いねwめちゃ強いじゃん!」といった。少年は「「何年も卓球やってるからね」」と言った。自分はその言葉に不思議に思い「卓球習ってるの?」と聞いた。少年は「いいや。いつもひとりでやってるの」と言った。自分はバスケをやっていて1人での練習が大切なことを知っていたが卓球を1人で練習する事ができるのか…?と不思議に思ったが父親が帰ってきたので「バイバイ!」と言って別れた。少年は「またね」といった。自分はその子の名前は知らないが「たっきゅうがつよいひと」から、たつひと。と勝手に名前を付けた。そうじゃないと記憶から消えてしまうからだ。
夜のバイキングでその子と再開した。その時に「おねーちゃん!またあったね。手紙あげる!」的なことを言われた。何故また会えるか分からない相手に向けて手紙を書いているのか凄く不思議だったし、自分はどう見てもおにーさんだろう。と思った。「自分はどう見てもおにーさんでしょ!」と言った。が、少年は「分かってるよ」と言った。全く意味が分からなかったがご飯の時間で家族も待っていたので「バイバイ!」と言って別れた。少年はまた「またね」といった。
部屋に帰って手紙を見ると自分は言葉が出なくなった。
「僕には翼があるけれど」
「飛ぶことは出来ない」
「ここから逃げることは出来ない」
「オチルコトシカデキナイ…」
と書いてあった。ドッキリを疑った。出なきゃあんな少年がこんなに意味深な手紙を書けるはずないと思ったからだ。自分は怖くなりトイレに行くのに弟に着いてきてもらった。「ほんとビビりだよね」と言われても言い返すことが出来なかった。弟はその手紙を読んでいない。
夜中、自分は目が覚めた。スマホで時間を見ると3:00くらい。普段は夜中にトイレに行くことは無いので少し不思議に思いながらも眠かったためすぐにトイレに行き帰ってくるとカーテンのかかった窓が光っていた。例えるなら花火。しかし真冬でさらに真夜中に花火などする人は居ないだろう。そう思いカーテンを開けた。そこには
翼の生えた人が空に浮いていた。
その人は紛れもない「卓球を一緒にした少年、「たつひと」だった。怖くなりすぐにカーテンを閉めた。布団にくるまった。寝れなかった。心臓がバクバクしている。涙が出た。恐怖で叫びそうだった。カーテンの隙間から出る光は消えない。
弟が自分の布団に入ってきて抱きついてきた。毎日のようにある事だったがその時は蹴り飛ばさず抱き返した。
朝、いつの間に寝ていたのだろう。と言う思いと「昨日の少年は?」という気持ちからカーテンを直ぐに開けた。雲ひとつない快晴。父親に「いつもカーテン開けないくせに」と笑いながら言われた。自分はそれどころでは無い。しかし親に言うことも出来なかった、人見知りである。
後日、家で朝食を取っていると父親が「俺らが前言ったホテルあるじゃん。俺らが泊まった日、転落事故があってサラリーマンが1人死んだんだって」といった。父親は警察官で主に死体の死因を調べる仕事をしていたためそういう物騒な話はよく入ってくる。もちろん父親が対応した訳ではないが。父親が死体の写真を見せてきた。たまに見せてくる。怖い。転落死の割に顔がそのまま残っていた。その顔に見覚えがあった。隣の台で卓球をしていた人だった。部下のような人とストロングゼロをかけて卓球で戦っていた人だった。とても自殺するようには思えなかった。落下した場所はちょうど屋上から落ちる中庭のようなところだった。しかしすごく狭く上から以外見ることは出来なそうなところだった。そして、そこで幼い子供の骨が見つかった。と父親に言われた。「ふぇっ?!」変な声が出た。父親に「いきなりどうした」と言われた。
少年からの手紙を読み返すことにした。
「僕には翼があるけれど」
「飛ぶことは出来ない」
「ここから逃げることは出来ない」
「オチルコトシカデキナイ…」
その後に文章が新たに追加されていた。最初見た時は無かった。
「僕にはやることが無い」
「誰も気づいてはくれない」
「卓球相手いないかなー」
「ボクヨリツヨイヒト」
「一生戦っていたいな」
「君はボクヨリ弱カッタね」
「残念」
「根魚 頭より」
と、書いてあった。
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