千円札のみと注意書きがある現金投入口のランプは光っているから、一応は買い物ができるのだろう。
よく見ると通路の先には、また違った建屋があって、一度出てからまたそこに行けるようになっていた。
通路を奥まで進んで二つ目の建屋に入ると、ここも同じような作りではあったが、自販機の商品が違っていた。
今度は、右側の自販機にはアダルトDVD、左側に自販機には女物の下着やネグリジェが販売されていた。
こちらの通路には、商品を買ってその場で開けたようなパッケージが散乱していて、比較的最近の物のようだった。
(買ってその場で開けるのか…?そういう物なのか、ただのせっかちなのか…)
そう思いながらDVDの自販機を見ると、それほど多くの商品はなかった。
(DVDなんて、それこそさっきみたいな店で買えばいいのに…)
後ろを振り向いて下着の方の自販機をよく見てみようと思った時、車のエンジン音がかすかに聞こえてきた。
よく聞くと、音がだんだんとこちらへ近づいてきて、車はこの店の前で止まった。
自分の車はそこにあるから、誰かがいるという事は分かっただろう。
俺は直感的に出口の壁に隠れて身を潜めた。
車のドアが閉まる音がして、足音がこの建屋の入り口の方へ向かっているのが分かった。
この人と鉢合うと何だか面倒な事になりそうな気がしたから、出口の方からこっそりと車に戻る事にした。
建屋の壁から顔を出して足音の方を見ると、入口へと向かう、いかにもスポーツでもやっていそうなガタイのいい男の姿があった。
いや、そいつは確かに男なのだが、胸のあたりまで伸ばした髪にも少し違和感があるし、着ている服も何だか妙だ。
男を見たのはものの数秒だったが、その長髪はいかにもコスプレ用の安っぽい感じだし、着ているものと言えばスケスケの、おそらくピンクのネグリジェと、女物のこれもまたスケスケのレースの小さな女物のショーツだとわかった。
(何だあれ…?)
ほぼ裸とまでは言わないが、深夜とは言え、とても外に着ていくような恰好ではない。
俺は見つからないように出口から出ようとしたが、2~3歩出た所で長く伸びた草に足を取られて思い切り転んでしまった。
(痛っ…!)
入り口にいた男が音を聞きつけ、こちらに振り向いてゆっくりと歩いてきた。
男がだんだんと近づいてくるが、足を捻ったのか、それとも腰が抜けたのか、すぐには立ち上がれなかった。
男は俺のすぐ側まで近づいていた。
暗闇でなおかつ長髪のせいで顔が隠れていてその表情ははっきりと見えない。
男は俺の顔を覗き込むようにしてこう言った。
「…違うのか。違うんだな…?」
その話し方や雰囲気からすると男は30代くらいだろうか、しかし、俺には何が違うのか分からなかった。
「…ち、違います…。」
と男に答えるのが精いっぱいだった。
























笑える?
恐怖と笑いは表裏一体で、ホラー映画で笑う事もあります。
しかし、この本人にとってはとても恐ろしい体験で、とても笑い事ではありません。
作者より
まぁ、他人事としたら笑えるけど、自分ごとにしたら笑えんかも…。
後、事実としてガタイがいいおっさんに襲われるのもね…(笑)
逞しい男性の女装。あまり似合っていなかったんだろうな。ちょっと笑ったけど、何されるか分からないから出くわしたくないな。