【真夜中のギター】
その日はひどい嵐だった。
夜になっても雨足は弱まることがなく、時折轟く雷鳴から逃げるため、ボクは早々に二階の寝室に引っ込みベッドにもぐりこんでいた。
しばらくしてふと気が付いた。
「・・・あれ? いつの間にか眠ってた?」
時計を見ると深夜2時を回っている。
さっきまで轟音を鳴らしていた嵐は過ぎ去ったようで、逆にそのことで辺りはシーンと静まり返っていた。・・・まるで世界にボクひとりだけのような。
だが、そうではなかったらしい。
廊下の方からミシっミシっと誰かがゆっくり歩くような音がする。
マリーさんだ。
ボクの家にはマリーさんという霊が住み着いている。たまに見かけることもあるが、どうやら悪霊ではないようなので、そのまま放っておくことにしている。
このマリーさん、二階の廊下を歩いていることが多い気がする。
階段を登り切ったあたりから廊下を渡って、一番奥の何もないところまで行っては気配が消える。だいたいそんな感じだ。
そんな不穏な足音もやがて消え、また静寂が戻って来たと思ったその時、どこからともなくギターの音が聞こえてきた。昔懐かしいアコースティックギターの音色である。
なにか寂しげな曲のようにも聞こえるが、かすかな音は果たしてお隣さんから漏れ聞こえてくるのか、あるいは外で誰かが奏でているのか・・・。
・・・いや、現実逃避はやめよう。これは間違いなく家の中から聞こえている。
もしかしてマリーさんが弾いているんじゃ・・・と、思ったその時、「ピーーン」と弦が切れるような音がして、それきりギターは鳴きやんだ。
・・・再び訪れた静寂の中、ボクはまた深く眠りに落ちた。
翌日、念のため各部屋を捜索してどこかにギターがないか探してみた。が、当然ながら見つからない。そんなものがあれば引っ越し当日に発見しているはずである。
と、そこにピンポーンと呼び鈴を鳴らす音がした。モニターを確認すると、そこには真っ黒な服を着た一人のお婆さんがいて、門を無理やりこじ開けて入ってこようとしている。
「あわわ、今、今行きます!」
慌てて玄関を出て、お婆さんに駆け寄って話しかけてみた。
「あの~、御用件はなんでしょう……?」するとお婆さんは、驚きの言葉を発した。
「あぁ、マリーさんはいるかい?」
「マ、マ、マリーさんですか? なぜあなたが知ってるんです?」
「知ってるも何も、あたしゃマリーとは長年の友達なんだよ! あんたこそ誰だい」
驚きのあまり一瞬頭が混乱してしまった。
お婆さんには家に上がってもらって少しお話を聞くことにした。
お婆さんをテーブルに案内して、ボクは裏庭からラベンダーとレモンバーム、そしてローズマリーを少しずつ採って来てフレッシュハーブティーを作った。
お婆さんに振舞うと、「おや、あんたもハーブ知ってるんだ」と感心された。そう、あれから少しハーブの事を勉強しておいたのだが、どうやら役に立ったようだ。
kanaです。
この作品は2022年の春頃に書いたマリーさんシリーズの4編をまとめて、加筆修正してまとめた完全版として書き上げたものです。長編18ページとなりましたが、面白く読めると思いますので、ぜひお読みください。後半に出てくるニンニンこと、除霊師・忍足 忍(オシダリ シノブ)は、朽屋瑠子シリーズの「赤騎士事件」にも朽屋の同僚として登場する除霊師です。スピンオフ参加です。お楽しみください。
読んでいる途中で感情移入をしたようで、涙が止まりませんでした。
良い話や
すごい感動しました👏
最高です!
※勲章授与のシーンで脱字がありましたので修正しました。
kanaです。
劇中歌として『ホームにて』と『時はながれて』をマリーさんが歌っていますので、
よろしければそれを聞きながら読んでいただくと、臨場感も湧くと思います。
ちなみに、検索をかけると『時はながれて』と同名のタイトルの楽曲を複数の方が歌われているようで、もしかしたら違う曲を聴く可能性もありますが(笑)、マリーさんが歌っているのはあくまでも「某有名女性フォークシンガー」が歌われている曲です。失恋の歌が多い方ですよね。
では、お楽しみください。
↑↑感動したというコメントをいただいて大変ありがたいです。あと、怖くないのにこわいねボタン押してくださる方、ありがとうございます。
みなさんはどのシーンでほろりと来ましたか?
怖いの苦手な方も、ぜひお楽しみください。
さすがです。
本を買ってみたい