それからも何か得体のしれない音や、気配を感じることがあったが、すべて気のせいだと自分に言い聞かせ、気にせず普通に生活することにした。
ある日の昼下がり。
スーパーで買ってきた食材をテーブルに広げ、料理としゃれこんでいた。
突然カルボナーラが食べたくなったので、市販のソースではなく、具材をきっちり買ってきて、ちゃんと自分で作ろうと思い立ったのだ。
ベーコンの良い物も手に入った。卵は室温に戻してある。生クリームに、それから粉チーズ用のパルメザンも準備した。ワインも以前買った上等なものがある。こんなもの、いつまでも保管していても無意味だろうから、今日開けて飲むことにした。
キッチンに立ち、まな板の上のベーコンにゆっくり包丁を入れていると、裏庭の方の開いたドアから気持ちの良い風が流れてきた。
ふと見ると、そこに人が立っている。
一瞬ギョッとして、包丁を持ったままたじろいだ。そこには夢で出会ったあの彼女が立っていた。生成りのスカートが風に少し揺れ、まるで本当の人間がそこにいるかのように自然に立っている。だから、最初は本当にご近所さんが来たのかと思ったくらいだ。
その彼女が、何かを指さし「ここにローズマリーがあるから、使ってください」と言ってうっすらと消えていった。
「ええぇっ!?」
ボクは一瞬驚いて、それから急いで彼女が立っていたあたりまで走った。辺りにはもちろん誰もいないし、そもそも裏庭には簡単に人は出入りできないようになっている。
そこでボクはようやく彼女が霊だったことに気が付いたのだ。
彼女が消える前に指を差した辺りを見てみると、確かにローズマリーが植えてある。ローズマリーだけではない。よく見るとバジルもあるし、紫蘇もある。それにラベンダーのような花もあるし、どうやらハーブ類と思しき植物がいろいろ植えられているようだった。
自分は勉強不足でそれほどたくさんハーブは知らないが、もしかすると彼女はここでハーブを大切に育てながら暮らしていたのではないだろうか?
「そうか、ローズマリーか。・・・これは肉によく合うハーブだったはずだ」
さっそくひとつまみローズマリーを頂いて、洗って刻んでベーコンと合わせてみた。
果たして出来上がったカルボナーラは、思わず「ボォーノ」と口から出てしまうほどの美味しい出来となった。
「うん、これなら今度パーティーの時にみんなに振舞ってあげられそうだ」
裏庭を眺めながら、彼女の事を思い返した。
「丹念に作っていたハーブを、使って良いと言ってくれたってことは、ボクはここに住んでも良いって認められたのかな?」
「そうだ、ローズマリーの事を教えてくれた彼女の事、マリーさんって呼ぼうかな」
ちょっと浮かれすぎているだろうか。ボクは今は見えないマリーさんのために、小皿とワイングラスを用意して、まるで二人で食事するかのようにセッティングした。
「乾杯しますよ、マリーさん」
そう言ってグラスにワインを注いだ。
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kanaです。
この作品は2022年の春頃に書いたマリーさんシリーズの4編をまとめて、加筆修正してまとめた完全版として書き上げたものです。長編18ページとなりましたが、面白く読めると思いますので、ぜひお読みください。後半に出てくるニンニンこと、除霊師・忍足 忍(オシダリ シノブ)は、朽屋瑠子シリーズの「赤騎士事件」にも朽屋の同僚として登場する除霊師です。スピンオフ参加です。お楽しみください。
読んでいる途中で感情移入をしたようで、涙が止まりませんでした。
良い話や
すごい感動しました👏
最高です!
※勲章授与のシーンで脱字がありましたので修正しました。
kanaです。
劇中歌として『ホームにて』と『時はながれて』をマリーさんが歌っていますので、
よろしければそれを聞きながら読んでいただくと、臨場感も湧くと思います。
ちなみに、検索をかけると『時はながれて』と同名のタイトルの楽曲を複数の方が歌われているようで、もしかしたら違う曲を聴く可能性もありますが(笑)、マリーさんが歌っているのはあくまでも「某有名女性フォークシンガー」が歌われている曲です。失恋の歌が多い方ですよね。
では、お楽しみください。
↑↑感動したというコメントをいただいて大変ありがたいです。あと、怖くないのにこわいねボタン押してくださる方、ありがとうございます。
みなさんはどのシーンでほろりと来ましたか?
怖いの苦手な方も、ぜひお楽しみください。
さすがです。
本を買ってみたい