無人の世界
投稿者:きのこ (21)
この話を友達にしたら、米国の有名人の体験談を思い出したと言われました。
賑わっているはずの空港に行くと自分以外誰もいなかったという話らしいのですが、
友人は詳しく覚えていないというので、誰かわかる方いたら教えて下さい。
それで私の体験談ですが、2年前の出来事で当時は看護師をしていました。
今は派遣事務の仕事に就いていますが、我ながらよくあの殺人的なシフトをこなしていたなと感心します。
17、8時間の拘束は当たり前の世界ですから。
その日は二交代勤務の日勤でした。朝7時半ごろいつもの通用口を通ったのですが、
院内が不気味なほど閑散としていました。人の気配がまったくないのです。
いつもなら朝食などでばたばたしているはずなのに。
私は更衣室に向かいましたが、同じシフトの同僚すらいません。
携帯で連絡をしてみると、電源が入っていないか電波が届かないというメッセージが流れます。
とりあえず、引き継ぎのためステーションへ行こうと思いました。
が、その途中職員どころか患者さんまで見当たらないのです。
それまでこんな異常事態に遭遇したためしがなかったので、怖くなりました。
とにかく誰でもいいから探そうと思い立ちましたが、むやみに歩き回るのも
恐ろしく感じて、内線電話の受話器をとりました。
しかし、あの「ツー」という発信前のダイヤル音さえ聞こえないんです。
軽くパニクっていた私は、もう一度自分の携帯でかたっぱし掛けようとして、
取り落としてしまいました。慌てて拾い携帯の待ち受け画面をみると、
実家の番号が出ており、迷わずダイヤルしました。
いつも聞いているあの発信音が聞こえたときには涙がでました。
「ガチャ」という音とともに、私はまくし立てました。
「もしもしお母さん?私」
「あんた今どこにいるの?△△さん(同僚)から連絡あったわよ、病院から。
時間になっても来ないから、もしかして事故にでも遭ったんじゃないかって」
それを聞いて私は力が抜けたというか、腰が抜け、その場に座り込みました。
そしてぞっとするようなものに気付きました。
それは先に携帯を落とした場所にバッテリーが落ちていたのです。
バッテリーもないのに母と会話をしたのです。
携帯を投げ出して、どこに向かうでもなく私は逃げ出しました。
どこをどう走ったのか覚えてませんが通用口近くまできて一歩も前に進めないほど
疲れ果て、中腰の姿勢のまま息を整えようとしました。
あともう少しで外に出られるのにどうしてそこで休もうとしたのか、未だにわかりません。
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