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不思議体験

きのこさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

お迎え
長編 2025/01/09 09:43 556view

 そう思いながら、葬式へ足を運んだ。

 白い箱の中を覗のぞくと、血の気が引いた彼の顔があって、声をかけても、なんの反応もなかった。彼のそばに行くといつも感じていた、メンソール系の甘いタバコの匂いも、もう感じない。

 その時にやっと、彼がもうこの世にはいないんだ、と認めることができた。

 そして、悲しむよりも先に後悔した。

 自分に出来ることなんて、何もなかったかも知れないが、無理をしてでも私が、遊びに行こうと誘っていたら、何かが変わっていたかも知れない。それが気分転換になって、彼は自殺なんかしなかったかも知れない。どうして、もっと早く連絡を取らなかったんだろう——。

 葬式の日から2ヶ月経って、お盆になっても、後悔の念が呪いの呪文のようになって、何度も何度も頭の中で繰り返された。

 火災報知器が鳴り出した時に、ふと、笑っている彼の顔が脳裏に浮かんだのは、私が罪悪感を抱いているからなのだろうか。それとも本当に、彼が近くにいるのだろうか。

 私が何もせずに、座ったまま音を聞いていると、火災報知器は、勝手に鳴り止んだ。

 ——結局、何も視えなかったな……。

 天井を見上げていた私は、顔を正面に戻した。

 すると私の近くには、いつの間にか、白い靄もやの塊があった。自分と同じくらいの大きさで、それはなんとなく、人の形のようにも視える。

 息を吹きかけただけでも、散ってしまいそうな白い靄を、私はじっと見つめ続けた。本当は友人の名前を呼んで確かめたかったが、泣き声を出さないようにするのが精一杯で、口を開くことができない。

 言葉もなく、ただ涙を流す私のそばに、白い靄は留まっていた。

 白い靄はたまに、ふわりと揺れる。何も聞こえないが、何かを言ってるのだろうか。

 ずっと後悔している私の、勝手な解釈かも知れないが、優しい笑顔の彼が「いい加減に、元気を出せよ」とでも、言っているような気がした。
 
 しばらくすると、白い靄は薄くなり始めて、もう行ってしまうのだろうと思った私は、なんとか口を開いた。

「来年は、コウさんの好きなタバコを買っておくからさ、また、帰ってきてよ」

 声が震えて、自分でも何を言っているのか分からなかったが、私が言い終わると、白い靄は視えなくなってしまった。

 あの白い靄が、本当にコウさんだったのかは分からないが、甘いタバコの匂いが、コウさんが大好きだったタバコと、同じ匂いだったことは確かだ。

 コウさんは、本当に優しい人で、いつも私の話を笑顔で聞いてくれていた。きっと、いつまで経っても立ち直れない私を心配して、様子を見に来てくれたのだろう、と思っている。

 お盆の『お迎え』の作法は、地域によって違うらしいが、私は毎年、自分は吸わないタバコを買って、飾っておこうと思う。

 お盆になって、友人があの世から戻ってきた時に、また私に、会いにきてくれるように——。

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