赫い指
投稿者:マチノスケ (16)
──片方だけ空になっていた、花立代わりの竹筒。
私はただ恐ろしくて。
泣きながら、その病院を後にしました。
あれから私は、あの林のことを遠回しに周りの人たちに聞いてみたりしました。サキちゃんの身に起こったことに関する、何か手がかりになるようなものはないかと。噂でも昔話でも、なんでもよかった。何か欲しかった。たとえ怖いものだったとしても、自分が納得できる何かが欲しかった。でも、何もなかったんです。そもそも「奥に墓がある」という話すらも出てきませんでした。大人たちが頑なに口を閉ざしているだけだと思い、大きくなってから自分で色々調べたりもしました。それでも、何も見つかりませんでした。人々の証言と漁った記録が示す限り、あの林は人の手から放っておかれただけの……ただの林でした。
サキちゃんがどうなったのかは、分かりません。
あの手が、あの墓がなんだったのかも、分かりません。
でも、サキちゃんの手は。
なくなった、左手は。
今も咲いているんだと思います。あの墓の傍で、足りなかった片方の花立を埋めるように。もう一度あそこに行っても、たぶん見つからないんでしょうけど。少なくともサキちゃんが発見されたあとに行われた警察の調査で、そのようなものが見つかったという話は聞いていません。どこかへ消えたのか。そもそも、そんなものなかったのか。でもサキちゃんの左手は、確実に消えていました。
あるいは、私なら見つけられるのでしょうか。
私が行けば、あの墓と彼岸花は再び姿を見せるのでしょうか。
むしろ、私が見つけてくれるのを待っているのでしょうか。
だとしても……もう二度と、行きたくはありません。
二人の感性か、時間帯か。あるいは墓石に潜む存在に魅入られたか。本来見つけることのできない、墓石へと続く道が現れてしまった、とでもいうのだろうか。
むかしは逢魔が時と呼ばれたものだ。昼から夜へと移りゆく、なにげない夕刻のひとときに、このように悲運へと引き摺り込まんとする魔の手が蠢いているのかもしれない。