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不思議体験

とくのしんさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

オカルト研究会部長の末路
長編 2024/11/01 10:01 1,814view
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大学時代にね、人にはあまり大きな声で言えないけど、オカルト研究会という同好会に入っていました。まぁ入った経緯は僕の近所の1個上の先輩で、熱心に誘われたからっていうだけなんですけどね。タダシくんは大学入学早々に、同好会を数人で立ち上げて代表を務めていました。オカルトに関しては全方面詳しい人だったので、みんな敬意を込めて『部長』と呼んでいました。そんなタダシくんが僕によく言っていたことがあります。

「この世界は、実は“仮想現実”かもしれない」

今でこそこの理論は、彼のイーロン・マスク氏が提唱したりと一種メジャーな話になりつつありますが、タダシくんが提唱していたのは20年近く前のことです。なぜ、そんなことを思いついたのか?と僕が尋ねるとタダシくんはこう答えていました。

『僕はね、幽霊の正体をデータの一種だと考えているんだよ』

いきなりですがみなさんは輪廻転生を信じていますか?輪廻転生とは、人は生き死にを繰り返し、新しい生命に生まれ変わるという考え方です。一種の宗教観ですが、タダシくんはこれを“システム”と考えていたようです。なぜそのように考えていたか?稀に前世の記憶を持って生まれてきたという話がありますよね。タダシくんはこれに着目していました。

人間はその一生を終えたとき、新しい生命に生まれ変わる。その際に全ての記憶が消去されるはずが、何かのきっかけでその記憶が残ることがある。それが前世の記憶を有するということではないか?
タダシくんはこの輪廻転生というシステムの過程のなかで、何かしらの不具合が起きていると考えていました。つまりシステムの不具合ということです。HDDを初期化したはずが、消しきれないデータが残っていたなんていう経験がある方はいると思います。それに近い現象が、我々にも起きるという事を提唱していました。

とすれば、我々人類は何者かに管理されているということでしょうか?もしそんな存在がいるとすれば一体どんな存在なのか?それに触れる前にこの世界について考えてみようと思います。
皆さんはご存じかと思いますが、僕たちがいるこの空間は幅と奥行きに高さを加えた3次元とされています。これに時間軸を加えた4次元と提唱されることもありますが、とりあえず3次元と考えてください。

一般的に我々が存在する3次元よりも高位次元は認識することはできないとされています。次元の数も11次元まであるとか色々と説はあるようですが、そんな高位次元に存在する“何者か”が、我々の管理者ではないかとタダシくんは言っていました。

太古の時代、人類に知識や文明を与えたのはそういった存在、つまり“神”がその高位次元体ではないかというのです。そのような存在が人間を作り出し、人間に知識を与えたと。実際、太古の文明の遺跡には神といった存在が示唆されるものが多数あります。考えてみればエジプトのピラミッドを代表例として、現代の建築技術をもってしても建造が難しいものを造り上げているのが何よりの証拠だというのです。シュメール文明ではアヌンナキという存在よって文明が授けられたとされています。このアヌンナキとは太陽系第10番目の惑星ニビルからやってきたとされている存在だと言われています。

ではそのような存在が仮にいるとして、我々人間を含むあらゆる生命体を管理する目的は何でしょうか?新しい世界の構築のための情報収集ではないか?とか、新たな知識生命体を生み出す研究、あらゆる生命体の進化の研究だとか話は尽きませんが、タダシくんは「案外、神様の暇つぶしなのかもしれないよ」とも言っていました。

冒頭に述べたようにこの世界を“仮想現実”と考えるに、最近のコンピューターゲームがより現実に近づいてきている点がよく挙げられます。グラフィックの進化もそうですが、ネットワークを通じて、世界の人々とゲーム内で繋がるというのは、正に仮想現実の構築に他なりません。今でこそメタバースといった技術が研究され実用に日々近づいておりますが、私が学生の頃は、単なる夢物語でしかありませんでした。

リングという一世を風靡した映画がありましたが、あれはネタバレにはなりますが最終的に仮想現実の世界での話というオチだったと記憶しております。もしかするとタダシくんはこれに看過された可能性はありますが、今となっては確認する術はありません。
というわけで、過去にもこのような理論を掲げた方はいますが、この世界が仮想現実と提唱するに、あらゆる数学的法則で世界が成り立っていることや量子力学の観点からもそう考えることができるそうです。その他超ひも理論というようなものもありますが、僕は学者ではないし、理系の人間ではないのでそのあたりの説明はちょっと省略です・・・すみません。
突き詰めていけば、もしかしたら僕らはゲームのなかのキャラクターかもしれないという話だったと記憶しています。

また“夢”がその証拠と考えることもできるそうです。寝ているときに見る“夢”は別の世界、つまりパラレルワードを別の自分を介して見ているのだそうです。だから見知らぬ土地にいても、全く知らない人と接しても、特に違和感を覚えないのだと言います。
みなさんは「シュレーディンガーの猫」をご存じですか?これは“観測するまで物事の状態は確定しない”という理論に基づいて行われた思考実験です。箱の中に猫がいるとして、一定確率で毒ガスを放出する装置と一緒に箱に入れられたネコは、蓋を開けて観測するまで生きた状態と死んだ状態が重なり合っているというものです。つまり観測するまでは、猫が生きている世界と死んでいる世界の二つが存在しているということなのです。観測するまでは不確定というのは、ゲームの世界でも使われる手法でして、“遅延評価”と呼ばれるものです。これも同様に値が値になるまでほったらかしにするというものですが、どうです?これを聞いて、この世界が少しは仮想現実かもしれないと思いませんか?
別に僕はこの世界が仮想現実だとは思いませんが、人は絶えず選択と行動をする生き物です。したorしなかったという選択が無限の世界を生み出しており、その別の世界を生きる自分を垣間見ているという理屈にはロマンを感じましたね。僕も夢はよく見ますが、この話は何気に納得してしまいました。

では、幽霊とはどんなものかという話に戻りましょう。前述したように、仮想現実であると仮定したうえでの話です。人間はその一生を終えると肉体と魂が分離すると考えます。この魂というのが記憶の集合体、つまりデータというわけです。このデータは“死”をトリガーとして、別の高位次元に転送されるのです。そこにはそれら記憶を管理するシステムがあり、そこでフォーマットされるのです。そして新しい肉体へ、真っ新になった記憶が宿ると考えていました。タダシくん的には、今でいうクラウドのようなものを想定していたのかなと思います。

通常であれば輪廻転生というシステムにて生まれ変わるのですが、“死”というトリガーにある一定の条件が加わると、記憶=データが破損するのではないかというのです。その条件とは、例えば“事故死”であったり“殺人”であったりと、強い衝撃を受けたり強い衝動や感情の高ぶりを呼び起こす事象により“死”を迎えると、我々の記憶の一部がバグ化し、この次元に留まることがあると仮定していました。それが“幽霊”の正体です。
また、肉体はこの次元に存在するが、魂といったものは本来高位次元に存在するものと考えることができると言います。だから“魂”は認識できないのだと。その欠片たる幽霊といった存在が認識できないのはそういった理屈からだとタダシくんは言っていました。

ただ、幽霊を見た聞いた感じたという人は古くからいます。霊感を持っている持っていないというのは、高位次元を認識できる能力を持つ人を指すといいます。恐らくですが、高位次元体が発する周波数のようなものを感じ取れるアンテナを持つということが、霊感を持っているのではないかということです。

そうなると悪霊といった存在はどうなのでしょう?人間に霊障といった害を及ぼすことは本当に可能なのでしょうか?タダシくん曰く「霊という存在を介して高位次元体が干渉している可能性が高い」といいます。まぁこのあたりは想像に過ぎませんが、例えば呪物などの存在も高位次元体が何かしらの影響を与えたものだと考えているようでした。つまり呪いとは、映画リングのような一種のウイルスとも言えると言います。

長々と書き綴りましたが、タダシくんとはこのようなユニークな発想をする人でした。大変面白い人でしたが、現在行方不明です。忽然といなくなりました。僕が社会人になった頃でしたね。ちょっとその話をしましょうか。

大学卒業して社会人になりたてだった頃、僕が営業先を回り、直帰しようと池袋を歩いているときでした。区役所近くの交差点で、タダシくんを見つけたのです。お互い気づいて飲みに行こうという話になりました。

お互い近況報告をしたのですが、タダシくんはフリーターをやっていると言っていました。確か大手商社に内定を貰ったという話だったのですが、仕事をやめてオカルト研究に没頭していると話していました。その話を聞きながら、大手を辞めるなんて勿体ないという思いと、学生時代と変わらず何をやっているんだ、という呆れました。まぁタダシくんの実家はかなりお金持ちで一人息子と聞いたことがあるので、働かなくてもそれなりにやっていけるんだろうなとも思いました。

と、あることに気づきました。タダシくんは牛乳瓶の底のような眼鏡をしていたのですが、裸眼なのです。それについて訊くと
「豊島区役所近くの雑居ビルにレーシック手術をやっているところがあってね。そこで手術を受けたんだ。機材は大手と変わらないんだけど、広告費をかけていないから治療費は大手の半分以下だった」
そんなことを意気揚々と語っていました。恐らくこれがタダシくんの運命を決定づけた出来事になったと思います。

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