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不思議体験

とくのしんさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

オカルト研究会部長の末路
長編 2024/11/01 10:01 1,763view
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ちょうどこの時代、レーシック難民なんて言葉がネットを騒がせていました。要はレーシック手術に失敗した人を指すのですが、タダシくんも同様に“眼”に異変が起きたのです。再会してから頻繁に連絡は取っていました。ある時タダシくんから話があるというので、池袋で待ち合わせをしたのです。東口の駅近くのマックで落ち合ったんですが、妙にタダシくんは何かに怯えていましてね。どうしたものかと訊いたところ、こんなことを言うんです。

「実はレーシック手術をしたせいか、“変なもの”が見えるんだ」
最初は揶揄われていると思ったのですが、こういう冗談を言う人ではなかったため、詳しく話を聞いたところ、以下のような内容を話してくれました。

「レーシック手術後、妙なものを見るようになった。恐らく幽霊の類だろう。
最初はそれが幽霊だとわかったとき、僕は興奮した。今まで見た事は無かったから。幽霊とは至る所にいることもわかった。普通に雑踏を歩く人波のなかに紛れているし、今だってほら、窓際の席に座っているあの女性は幽霊だ。わかるんだよ、生きている人間と死んでいる人間がね。

こないだ会ったときに仕事を辞めたといっただろう?それが原因なんだ。レーシック手術をしたのは勤めているときでね。今から3か月くらい前だったんだが、術後すぐに霊が見えるようになった。それはそれでよかったんだが、“別の存在”まで見えるようになってしまったんだよ。

その別の存在は明らかに人間とは異なる存在で、例えば手足が妙に長いとか、首が異常に長いとか、身長が5mくらいあるものとか・・・」

その話を聞いて「薬物でもやっているんですか?」と思わず訊いてしまう程でした。もちろんタダシくんは全力で否定しましたよ。自分は薬物はおろかおかしくなんかなっていないって。それじゃ仕事まで辞める必要はなかったんじゃないかと訊いたところ、理由はそういった異形の存在からアプローチを受けるようになったというんです。

「そいつらの存在が見えるようになって、興味半分であとをつけたりしていたんだ。でも必ずどこかで見失う。忽然と消えるんだよ。そんなことが続いたとき、奴らから声を掛けられたんだ。“お前、見えているな?”と。そうして、僕の周りでは異様なことが起きるようになった。親しい人がいなくなったり。ただいなくなるんじゃない。その人を知っている人間の記憶ごと消えてしまうんだよ。でも何故か消えた人を憶えているのは自分だけという状況でね。そんなことが続いたりした。さすがにこれ以上人を巻き込めないと思って仕事を辞めたんだけど・・・そうしたら君に再会した」
で、僕にこうやって連絡を取ってきたということは、僕は巻き込まれてもいいということかと質問したところ、それは違うと言いました。

「今日来てもらったのはこれを渡しておきたいからだ」
そういって大量のノートを渡してきたのです。

「これは僕がずっと研究してきたものだ。これを君に渡したい。恐らく僕も同じ目に遭うだろう。だから君にこれを託す。僕が消えれば恐らく君の記憶から、僕という存在は消えるかもしれない。でも君ならこのノートがあれば僕を思い出してくれるかもしれないから・・・」
そう言い残し、タダシくんはお店をあとにしました。それがタダシくんの最後に姿になりました。
タダシくんが手術を受けたという雑居ビル周辺を調べましたが、眼科が入っているビルはなく、風俗の案内やキャバクラといったお店ばかりでした。それっきり連絡をしても返事はないし、タダシくんからも連絡はなく・・・それから3か月くらいしてからでした。

タダシくんのお母さんから僕の実家に連絡がありました。

「タダシがいなくなったんだけど何か知ってる?」
僕はタダシくんのお母さんと共に彼のマンションに行きました。久々に会ったタダシくんのお母さんは少し歳を召しており、また大分やつれていました。

「タダシ、ここ最近おかしかったのよ。仕事を急に辞めたと思ったら、自分に近づくなってそればかりで。昔からあの子、変なこと好きだったでしょ?それはいいんだけど、変なことに巻き込まれていなかって心配になって。電話にも出ないし、それであなたにお願いしちゃったんだけど・・・」
そう言いながらマンションのドアを彼女は開けました。すると今まで嗅いだことのない異臭が立ち込めていました。自殺した人や孤独死した人が発見されず腐敗していくなんてことが多々ありますが、そういう腐敗臭というよりも化学製品が燃えたような臭いがしたんです。

思わず手で鼻を覆いたくなるほどの異臭のなか、リビングのドアを恐る恐る開けました。そして僕とタダシくんのお母さんは驚愕しました。

壁に、人の影が焼き付いていました。

広島の原爆で焼き付いた人の影の写真をご覧になった方はいらっしゃいますか?あれと同じように、壁に人の影がくっきりと残っていました。その影の背格好からタダシくんだと僕は直感しました。恐らく同様にお母さんもそう思っていたに違いありません。お母さんはその場に泣き崩れてしまいました。

あれから20年近く経ちました。この話はそんなタダシくんが一番好きだったテーマを、僕なりに書き起こしたものになります。彼が残したノートを見ながら、稚拙な文章ながら必死に書き上げました。

恐らく彼はこの世にもういないのでしょう。しかし彼の理論であれば、肉体は失っても記憶という媒体は別の次元に旅立つのです。もしかするとタダシくんは、別の次元の何者かに連れられて行かれたのではないでしょうか?突拍子もないことを言っているのは重々承知しています。ただ、常に真理を追究していた彼にとって、それが一番幸せなことだとも思うのです。今もきっと自分の立てた理論の答え合わせをどこか遠い世界でやっているとすれば・・・。そう思いたいです。

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