小学校の頃の同級生、Tのお話です。
俺、心霊現象とか、そういう怖い話は体験したことないんだけどさ、一度だけ変な体験したことあるんだよ。
家庭科の前田先生覚えてる? そうそう。マエケンって呼ばれてたっけ。
面白い先生だったよなー。怒んないし。俺結構マエケンのこと好きだったよ。
でも、あの日からなんか気持ち悪くて。
授業でさー、ケーキ作ったことあるじゃん?あのときの話なんだけど。
調理実習って班で料理して、それを評価するって流れだと思うんだけどさ、
「君はよし」
「お前はダメ」
って、先生が生徒に向かって言うのね。
お前なんて言う人じゃないし、生徒にダメだしとかも普段する先生じゃなかったじゃん。でもその日だけ、おかしかったんだよ。なんて言うのかなー、こう。品定めしてるといった感じ。
しかも気持ち悪いのがさ、判断基準がどうにもケーキの出来とかじゃないんだよ。
それで、よし。と言われた人だけ放課後に家庭科室へ来るように言われてて。
普通ダメな子を残すじゃん?変だなと思って。お前(薪割り)も残れって言われてたから、家庭科室の外で待ってることにしたんだよ。
うちの校舎ってすげー古かったし、授業の声とか、それこそ家庭科室なら、泡立て器がボウルにあたるカチャカチャした音とか、チョークを黒板に擦り付けるカッカッという音がするもんなんだけど、なんの音も聞こえなくってさ。
そーっと扉の小窓から覗いたら、皆、前をじっと見て、無言なの。うちのクラスはいつも騒がしいのにさあ。表情もなくって。
怒られていてバツが悪いような様子でもないし。
先生も何も話さず、真顔で。
あっけに取られてたら、先生がラジカセを取り出してきて。
「では始めます。」
そしたらラジカセから、なんていうんだろうなあ、お経と、神社の神楽みたいな声と音が流れ始めて。
「うーだらあんだーせーべー」
あ、適当ね?流石に昔すぎるし、何よりなんて言ってんのかもわかんないしな。
でも、家庭科室に残らされてるやつは全員、拍手してんだよ。
気持ち悪くなって、俺はさっさと帰ったからそこからは知らないけどさ。
次の日にそいつらに話聞いたら、全員覚えてないっていうし。
気持ち悪かったわー。
前田先生って結局どんな先生?
薪割りです。
前田先生は本当に普通の先生だったと思います。
私が通っていた頃に40歳にさしかかったくらいの男の先生でした。
歳の割に肌艶が良く、20代にも見えるような先生でした。