コインロッカー

　これは、俺が体験した、怖いと言うよりは不思議な話。

　俺は、旅行で手荷物を預けるために、ある駅のコインロッカーを使おうとした。そこで、空いているロッカーの1つに手をかけた。その時、ロッカーを開けようとした自分の手を、急に横から掴まれた。その手の主の方に目を向けると、20代くらいの男が、焦った顔でこちらを見ていた。

「あ、あの、そこのロッカー、私に譲ってもらえませんか？他のロッカー使っていいですから！」

　その男は、大声でまくし立ててきた。そのせいで、周りにいた人たちも俺とその男を注目していた。

「わ、分かりましたから！」

　俺はそう言って、咄嗟に手を離した。その後は、居心地が悪くなったから、すぐにその場を去った。

　だけど、あの男は、何でそんなにあそこのロッカーを使うことを拒んだのか。あのロッカーを俺が開けてしまっていたら、俺がロッカーの中身を見てしまっていたら、どうなっていたのか。全く分からない。