あの夏への扉
投稿者:綿貫 一 (31)
川の深くて暗い場所に、信じられないくらい大きな魚影が蠢いた。
その身体は、なぜか仄かに光っている。
『な……なにあれ?』
僕は思わず声を上げた。
だって、いくら川幅が大きく、深いところもある川だとは云っても、あんなサメみたいな大きさの魚がいるなんて――。
『――あれはね、川の主。
ずっとずっと、ずーっと昔から、この川にいるの。
洋ちゃん、これは知ってた?』
紗雪は得意げに胸を張る。
僕は素直に頭を振った。
『私ね、まだまだたくさん知ってるよ?
さあ行こう、洋ちゃん。
次は森の女王、ブナの大木のところに案内するよ!』
そう云って、紗雪は再び僕の手を引いた。
僕の、手を。
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カブトやクワガタが集まる森。
魚がよく捕れる川。
蛍が見られる水田。
希が案内してくれる場所は、どれも私が子供の頃に遊んだ場所だった。
やっぱりな、と思う反面、昔なじみの場所が変わらず残っていること、それが今の子供たちにも受け継がれていることに、素直に喜びを感じた。
「この先にある秘密基地にはねー、ほら、木に誰かが掘った矢印通りに進むと行けるんだよ。内緒の暗号なの」
それは昔、私が付けた傷だ。時間の経過によって、だいぶわかりにくくなってはいるが。
得意げな希の様子を見て、私も密かに得意な気持ちになる。
まるで童心にかえったかのようだ。
爽やかな汗の匂いを振りまきながら、元気に走り回る希。
揺れる黒髪、白いワンピース。
それは強い日差しの中で、絵画のような神聖な美しさを持っていた。
【吉良吉影!雪女に会う~少年時代 特別編~①】
何となくこれを思ったw