あの夏への扉
投稿者:綿貫 一 (31)
長編
2024/06/05
22:43
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私の手を引く、希の小さな白い手。
手のひらは冷たい。
紗雪の手も冷たかった。
小学三年の夏。
そこには、子供時代の夏のすべてが詰まっていた。
見上げれば、巨大な入道雲が浮かんだ真っ青な空。
視線を下げれば、万緑に覆われた山々。
どこまでも広がる水田。
草と、土と、汗の匂い。
耳に残る蝉しぐれ。
口の中によみがえる、ラムネアイスの爽やかな甘さ。
つないだ手と手。
僕と彼女。
僕と紗雪の――。
「先生、ほら、こっちだよ」『洋ちゃん、ほら、こっち』
「これは希自慢のねー」『これは私だけの特別な――』
「そういえば今夜、神社でね――」『年に一度の盆の夜祭――』
「『一緒に行こう、(先生)(洋ちゃん)!』」
彼女が笑う。
私(僕)は――。
§
§
§
ドン――!
山間を、花火の破裂音が木霊する。
夜空から、鮮やかな光と、腹に響く音が降り注ぐ。
花火大会という程の数ではないが、それでも立派な花火が、この夜祭のために打ち上げられていた。
駄菓子屋すみれの脇から伸びる階段を駆け登ると、山の中腹にある神社の境内には、多くの夜店が軒を連ねていた。
提灯と屋台の灯りのもと、笑顔で境内を行き交う、大勢の人々。
この田舎町に、こんなにも人がいたのかと、驚くほどの賑わいだった。
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何となくこれを思ったw