笛の音。
人の笑い声。
カラコロという下駄の音。
それらが混然一体となって、ひとつの祭の音になる。
僕は人込みに目を向け、紗雪を探す。
待ち合わせの場所である鳥居の傍に、彼女の姿が見えなかったからだ。
不意に背後から声がした。
『お待たせ』
驚いて振り返ると、浴衣姿の紗雪が立っていた。
紺地に白抜きの朝顔柄。
赤い絞め帯。
髪を結い上げた紗雪は、いつもの彼女よりも大人っぽく見えた。
『ごめんね、待った?』
『いや、待ってない』
上目づかいにこちらを見る紗雪と目を合わせられず、そっぽを向きながら応える。
そんな僕の手を取って、『行こっか』と紗雪が笑う。
浴衣の袖から伸びる手は、今日も冷たかった。
祖父母からもらった小遣いで、僕らは祭を遊び倒した。
綿あめ、焼きそば、リンゴ飴、射的、型抜き、金魚すくい。
屋台を走り回って、色々なものを買って、色々なものを食べた。
時間が、あっという間に過ぎていった。
僕は翌日、家へ帰らなくてはいけなかった。
今日が最後の日だった。
そのことを紗雪には告げていなかった。
惜しかったから。
もっと一緒にいたかったから。
だから、代わりに精一杯はしゃいでいたのだった。
思えば、僕と紗雪はよく似ていた。
だから、紗雪も同じだった。
紗雪も僕に隠してた。
今日が最後だってこと。
だから僕らは。
本当によく似ていた。
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【吉良吉影!雪女に会う~少年時代 特別編~①】
何となくこれを思ったw