カウンセリング
投稿者:Mine (24)
ぽつりと口にする彼女の瞳は心なしか揺れているように見えた。ただでさえ白い顔が更に蒼白になっている。何かを言いかけるように口を開き、すぐ閉じる。視線は私の顔から机の上の自身の手元へ落ちていき、暫しの沈黙が訪れた。
今日は2時間近く彼女と話をした。いつもより長い面談で疲れたのだろう。そう考えた矢先、
「…ごめんなさい、今日はもう帰ります」
いきなりそう言って彼女は挨拶もそこそこに逃げるようにそそくさと席を立った。
部屋の戸口を出る直前、彼女は一度立ち止まって振り返り私を見た。
今思えばその目は完全に光を失い、濁りきっていたと思う。
数秒ほど視線を合わせた後、彼女は私の問いかけを無視してそのまま部屋を出て行った。
その日の夜7時、帰宅した私に学校から連絡が来た。
楓が電車に飛び込んで即死したという報せだった。
母親は錯乱状態になり殆ど会話もできない状態だという。
この報せを受けて私は何が起きたかすぐには分からず、状況が理解できるまでしばらく時間を要した。悪い冗談のように全てが唐突で、現実感がまるで無かった。
遺書の類は残されてなかったらしい。
私は葬儀に参列しなかった。いや、できなかった。あの子の母から私は参列させないようにと学校側へ強い要望があったからだ。
そして学校側から私に伝えられたのは楓は性同一性障害を持っていて、身体上では男性である、という事だった。これ以上秘密にする理由はないとあの子の母親は判断したようだ。
何故これまで違和感を覚えなかったのか。
私は自分の視野の狭さをひたすら呪った。
楓はその事実を自分から打ち明けようと毎日葛藤していたに違いない。
そして順当に行けばあの子はきっと勇気を出して私に打ち明けてくれたはずなのだ。
あの子の母親もそれを信じて私にこれまで黙っていたのだろう。
”優しくて幸せで素敵なお母さんになれるよ”
そんな時、私が不用意に口にしたこの言葉は子供の産めない身体のあの子を全否定する物だった。あなたは幸せになれない、私はあの子にそう宣言したも同然なのだ。
私は自分の両手が血に塗れているような錯覚を覚え、罪悪感で心が押し潰れそうになった。
しばらくして家のポストに差出人不明の封筒が投函された。
中には便せんが一枚だけ。
『楓を死に追いやることができて満足ですか?これからもあなたは自己満足な説教をするカウンセラーとして多くの人を不幸にしていくのでしょうね。あなたが地獄に落ちることを心よりお祈り申しあげます』
私は便せんを破り捨てた。
最後、ゾッとしました。
( ゚д゚)。
輪廻転生、生まれ変わり(*´∀`)。
あるんやな、ホンマに(*´∀`)。
ストーリー展開、ディテールにも隙がないし、文章力も確かでオチも秀逸。文句なく傑作です。
リーンカーネーション物。
良いですね。
同じ投稿者として、悔しいがこの話は大賞に値すると思う。
多分一般票で稼ぐのは限界があるんだろう。常連さんは不可解な票の伸びがあって、正直萎える。
楓さんはあなたを選んで生まれてきたんですね。もしくは、一瞬娘さんに憑依したのか。
自殺者はそう簡単に転生はできないカルマを背負うと思っていますが、今生では幸せに育んであげて下さい
LGBTの人達…今も弱い弱い存在なのだという問題の一石を、怖い話の場にも投じられたMineさんに拍手を送りたいと思います。Mineさんは、弱者の視線で物事を見られる方ですね。素晴らしいと思います。
ただ、“伝える”という点では、拝見していて矛盾を感じたり、すんなり分からない箇所が幾つか ありました。
まず、冒頭に、学校カウンセラーとして勤務している、と現在形で書かれていたのが、楓の件 以降、過去形になっているのが腑に落ちません。。
次に、遺書が残されておらず、同席もしていなかったお母さんが、先生に「地獄に落ちてください」と強く言えるだけの因果関係があったのかどうかを知り得たことに不自然さを感じました。
更には、ちょっと厳しくなりますが、カウンセラーなら、このぐらいの事では仕事を辞めません。落ち度がない訳ですから。この程度の事で責任を問われるのなら、カウンセラーは何も言えなくなっちゃうと思いませんか?
ご自身が書かれた文章を、矛盾や誤りがないか、注意深く読み返され、また広く世間に目を向けられて、問題がどこにあるのかを、より深く考えていかれると更に良くなると思います。ちょっと厳しい事を書きましたが、応援しています。頑張ってください。
恐ろしい……アキちゃんの娘は何処に?
こ、こわっかたです。
マジかー
そういうオチ…
幸せ=結婚して母親になること思い込んでるカウンセラーはやだなぁ。たまたまマタニティハイだったとしても向いてないと思う。