パンドラ
投稿者:綿貫 一 (31)
俺は怯えるAに「逃げるぞ!」とだけ言い捨て、急いで階段を降りると自転車にまたがった。
しばらく走っていると、Aが追いついてきた。
俺たちは適当な空き地に自転車を停め、今あったことを共有し、このあとどうするかを話し合った。
戻って、オヤジを開放するのは危険だと、俺は思った。
オヤジが俺達をどうするかわからない。
やつの秘密を知ったうえに、閉じ込めまでしたのだ。怒り狂っているに違いない。
俺の意見に、Aも賛同した。
Aは小心者で、大人に怒られることを何より恐れていた。
結局俺たちは、そのまま家に帰った。
それぞれの親には、お互いの家に遊びに行っていたと説明した。
あのレンタルボックスの話は、いっさいしなかった。
それから、俺の地獄は始まった。
その日はずっとソワソワしていたし、夜もよく眠れなかった。
自力か他力か、いずれなんとかしてコンテナから脱出したパン屋のオヤジが、自身を閉じ込めた俺たちに復讐しに来るのではないか、という不安からだった。
翌日の学校では、Aとはよく目があうものの、会話らしい会話はしないまま放課後になった。
それでも、どちらともなく下駄箱で一緒になった
俺たちは、遠回りしてアライベーカリーへ向かった。
店は閉まっており、「臨時休業」という張り紙がしてあった。
やはり、夜はよく眠れなかった。
翌々日、
3日後、
4日後。
日が経つにつれ、「まだ見つかってない」という安堵は、「まだ見つかってない」という恐怖へと変貌し、俺を苦しめた。
5日後、
6日後、
7日後。
俺はいつしか不登校になっていた。聞けばAもだという。
ただ、くだんの連続誘拐事件の影響で子供を外に出したがらない家庭もちらほらあったため、俺たちのそれも、目立ちはしなかった。
その頃、俺の中にあった心の声。
それは、「こうなった以上、もう誰にも言えない」だった。
うわ…続きが気になります