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意味怖(意味がわかると怖い話)

綿貫 一さんによる意味怖(意味がわかると怖い話)にまつわる怖い話の投稿です

パンドラ
長編 2024/04/03 23:04 12,022view
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コンテナに入っていったのは、パン屋のオヤジだけ。
そして、コンテナの中にいる人物もひとりだけ。
当然の帰結として、セーラー服の人物こそが、パン屋のオヤジその人だった。
長い黒髪は安っぽいカツラだった。

見つかったら殺される――。

俺は、直感的にそう思った。
パン屋のオヤジは寡黙な男だが、人相がヤクザ顔負け、おまけに腕は丸太のように太く、熊のように剛毛だった。
子供のひとりやふたり、簡単にくびり殺せそうだった。

俺は、オヤジに気づかれないように、顔を引っこめて、Aのところへ戻りたかった。
Aを促し、ふたりして急いで自転車に乗って、この場を離れたかった。

オヤジに見つかるその前に、静かにこの場を、

「お〜い、なんか見えたか〜? 
早いとこ帰ろうぜ〜」

Aの怯えて頼りない、それでも、この場に似つかわしくない音量の声が、背後から響いた。

「誰だっ!」

瞬間、黒髪を翻して、セーラー服姿のオヤジがこちらを振りかえった。
なんと、顔には化粧までしている。
真っ赤な唇が、妙に印象的だった。

恐ろしい勢いで、オヤジがこちらに迫ってくる。
逃げ切れるか?

相手はあんな格好だ。速くは走れないだろう。
移動式階段を降りて、途中にいるAを連れて、地上へ。
自転車は回収しなければいけない。さもないと身元がバレてしまう。
だが、相手は車だ。俺たちのこぐ自転車では、途中で絶対追いつかれてしまうだろう。
では戦う? 
無理だ。
ならどうする?

俺はとっさに、「扉を締めた」。
オヤジの手が扉に伸びる寸前で、扉は完全に閉ざされた。
さらに俺は、コンテナの錠を締めた。
これにより、もう大人の力でも、内側から開くことはできなくなった。
扉が閉じてしまえば、巨大な鉄の箱の密閉性は恐ろしいもので、内部で叫んでいるであろう、オヤジの声はいっさい外に聞こえてこなかった。

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コメント(1)
  • うわ…続きが気になります

    2024/04/03/23:48

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