盆の舟
投稿者:青空里歩 (2)
「話したのか?」
「話してはいません。おーいって、船から手を振っていました。」
「それから。」
「……」
「△△(息子の名前)は、見てないんだな。」
「多分、見てないと思います。寝ていましたから。」
「気づいてないのね。」
「それは、わかりません。異様な気配を感じ取ったのか、大声で泣き叫んでいました。」
夫は、ふぅと大きなため息をつきました。
「手は、振り返したの。」
「していません。するわけないです。どうしてそんな事を聞くのですか。」
私は、姑に咎められているような気がして、きつく言い返してしまいました。
私が質問に答える度に、険悪な空気が流れ、その場にいる誰もが、冷静さを失っていました。
「あと、なにか言われたか。」
「こっちに来いと。」
「呼ばれたのか。」
こくり と首を縦に振り下ろしました。
「それから。」
「船の中では、柄に丸い皿のようなものがついた杓を持って、踊りを踊っていました。あまりの美しさに思わず見とれてしまいました。」
「それから、羽衣のような その時は、とてもきれいに見えたんですけど、よく見ると羽衣なんかじゃなくて、ボロボロなった帆柱の残骸でした。それが、何枚もの布が折り重なるかのように風をはらんで漂うように見えました。」
夫は、
「流石だねぇ。職業柄、描写力表現力、なにより、臨場感たっぷりのお話ありがとうだ。」
と皮肉ともとれる口調で、泣き笑いし始めました。
舅と姑は、天井を見上げ、顔を覆ってしまいました。
「宴会は、お開きまで見てしまったんだね。」
「お開き?」
あぁ、あの美しい走馬灯のような幻想的な情景のことか。
「要するに、宴会の最後の締めまで見ちゃったってわけだ。お開きは、最後の最後真の姿まで見せるってことだ。」
舅と姑の嗚咽が辺りに響き渡りました。
「車の窓の外に、黒い人影が数人立って。」
「車の扉がドンドンと叩かれて。」
「おい!って男の声がして。」
話を続けようとする私に、
「もういい。分かった。俺も悪かった。こんなことになるなら、3人で来るんだったよ。」
まさか、ご主人(‘_’?)
なかなか読み応えがあって面白かったです。
長編で面白い作品に怖い話の醍醐味を感じました。
これからも頑張ってください。
(゜レ゜)。
レーサーが宝船を見てはいけないという話があったと思う(゜レ゜)。
東北こういう話多いね(;_;)。
( ゚д゚)。
お読みいただき、コメントを下さった3名様、ありがとうございます。作者の青空里歩です。
順を追って、返信いたします。
・確かに、衝撃的なラストです。ご主人の後悔たるや並大抵のものではないでしょうね。
・初回投稿作『優良物件の裏側』をお読みくださった方でしょうか。もったいないほどの励ましの言葉ありがとうございました。これからも、ご期待に添えるよう頑張ります。基本、長編が多くなりますが、短編、中編にもチャレンジしていきたいです。どうぞよろしくお願いします。
・レーサーが宝船を見てはいけない。そんなジンクスがあったなんて初耳です。グーグルで検索してみたのですが、深夜番組で放送されたそうですね。実際に、現役カーレーサーで、見た人がいらっしゃるのでしょうか。
東北は、別名「みちのく」ともいわれています。(漢字では、「未知の奥」と書くらしいですから)怖くて不思議な伝承怪談の宝庫。まだまだ、未知の怪談がたくさんありそうですよ。
文章も上手く、構成もしっかりしている傑作。
美しくも妖しい屋形船の姿が目に浮かんでくるようです。