盆の舟
投稿者:青空里歩 (2)
夫は、唇を噛み締め、舅と姑の肩を強く抱き、
「悪い、俺たち逃げるわ。もうすぐそこまで来ているかもしれないから。」
「命あっての物種だ。」
「そうね。早く、できるだけ遠く、山を通っていくのよ。」
「わかった。そうする。とりあえず、ゆかりちゃんの実家に身を寄せるわ。」
「それがいい。」
「さぁ、早く。急ぎなさい。私達のことなら、心配しないで。」
「分かった。落ち着いたら手紙か電話で知らせる。元気で暮らせよ。」
「△△くんは、もう、まともに育たないかもしれん。ゆかりさんと二人、生涯、死ぬ気で守ってやってくれ。」
舅が顔を覆ったまま絞り出すような声で話しました。
それに重ねるように、姑が、話します。
「生きている人間のほうが強いの。そう言い聞かせて、気を強く持って頂戴ね。負けたらだめよ。あなた方は、親になったのだから。」
まるで今生の別れとばかりに、二人は、目を真っ赤に腫らし肩を震わせ泣いていました。
夫は、眠る息子を再びチャイルドシートに乗せると、着替えもそこそこに、強引に車に引き戻され、ただ呆然とする私を前に、
「詳しいことは後から話す。とにかく、君と△△は、ここにはいられないんだ。二度とここには、来てはいけないんだ。」
夫は、運転席に腰を下ろすと、涙を拭い、エンジンを掛け、なにかに怯え気遣うように、ゆっくりと車を走らせました。
私と息子は、たった今、訪れたばかりの夫の実家を後にしました。
もう二度と訪れることのない家。
時刻を確認する元気もなく、私は、目を閉じ、眠りに落ちました。
東北自動車道に入る頃には、日はすっかり高く上っていました。
近くのパーキングエリアで、冷たい飲み物を購入し、夫と私は、サンドイッチを口にしました。
息子も、変わった様子はなく、授乳が終わりお腹が一杯になったのか、いつもと変わらぬ笑顔で応えてくれました。
それまで、無言を貫いていた夫も、やっと重い口を開き、言いにくそうにしてはいましたが、ぼちぼちと語ってくれました。
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以下、夫の話です。
常体で書かせていただきます。
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私が見た屋形船は、「盆の舟」と呼ばれ、年に一度の盆の入りに、日が完全に落ちてから忽然と沖に現れると言われている。
要するに、あの世とこの世をつなぐ 定期便のような船らしい。
まさか、ご主人(‘_’?)
なかなか読み応えがあって面白かったです。
長編で面白い作品に怖い話の醍醐味を感じました。
これからも頑張ってください。
(゜レ゜)。
レーサーが宝船を見てはいけないという話があったと思う(゜レ゜)。
東北こういう話多いね(;_;)。
( ゚д゚)。
お読みいただき、コメントを下さった3名様、ありがとうございます。作者の青空里歩です。
順を追って、返信いたします。
・確かに、衝撃的なラストです。ご主人の後悔たるや並大抵のものではないでしょうね。
・初回投稿作『優良物件の裏側』をお読みくださった方でしょうか。もったいないほどの励ましの言葉ありがとうございました。これからも、ご期待に添えるよう頑張ります。基本、長編が多くなりますが、短編、中編にもチャレンジしていきたいです。どうぞよろしくお願いします。
・レーサーが宝船を見てはいけない。そんなジンクスがあったなんて初耳です。グーグルで検索してみたのですが、深夜番組で放送されたそうですね。実際に、現役カーレーサーで、見た人がいらっしゃるのでしょうか。
東北は、別名「みちのく」ともいわれています。(漢字では、「未知の奥」と書くらしいですから)怖くて不思議な伝承怪談の宝庫。まだまだ、未知の怪談がたくさんありそうですよ。
文章も上手く、構成もしっかりしている傑作。
美しくも妖しい屋形船の姿が目に浮かんでくるようです。