監視役のトラ猫
投稿者:希子 (19)
私の友人のそのまた知人ですが、結婚後まもなく、心が離れてしまった夫婦がありました。きっかけが何だったのかまでは知りませんが、DVすらあったようで、結婚1周年を迎えないうちから、旦那さんは隣町の不倫相手・Aさんのところへ足しげく通うようになっていたそうです。
Aさんはいわゆるタワーマンションの中間層に一人で住んでいたのですが、ある密会時、旦那さんはベランダに猫がいるのに気が付きました。
大きく太った、オレンジ色のトラ猫でした。その猫が、室内にいる旦那さんの事を見据えているのです。動物の苦手な旦那さんは、嫌悪感を感じて「何じゃ、こいつ」と睨み返しました。ふつう、道ですれ違うような猫なら、これでどこかへ逃げうせてしまうのですが、このトラ猫は違いました。ライトグリーンの明るい目で、旦那さんをまっすぐ睨み返してくるのです。
不快に思い、Aさんにカーテンを閉めるよう言うと、彼女はこう言います。
「変な猫よね、時々あそこに座っているんだけど、どこの子かわからないの。」
タワーマンション中間部で外から迷い猫が来るわけもないので、どこぞの部屋から逃げてきたのだろう、とその時は気にもとめませんでした。
ところがそれ以降、旦那さんがAさんのところを訪れるたび、何故かそのトラ猫がベランダの隅に座って、室内をにらんでいるのです。旦那さんはすぐにカーテンを閉めますが、時間をおいてそっと開けてみても、相変わらず旦那さんをまっすぐににらみつけてくるので、だんだん気色悪さを感じるようになりました。
やがて夫婦の離婚手続きが済み、奥さんが去るとともに、Aさんのベランダで猫を見かけることはなくなりました。と言っても、その頃旦那さんはAさんにもふられてしまったので、その後も全く出没しなくなったかどうかは定かではありません。
この顛末を、旦那さんはある時幼馴染の友人に酒の席で話したそうです。この人は、実は元奥さんと小さい頃にご近所どうしだった人なのですが、その人は猫の容貌を聞いて引っかかるものを感じました。
もう20年も前に死んでいるはずですが、昔、元奥さんの家で飼っていた大きな猫にそっくりだったのです。
他人の(他猫の)空似とも言えますが、元奥さんの守護をしている猫の霊が、旦那さんの行いを監視していた…と考えると、しっくりくるようなものがありました。
不倫調査の探偵以外にも、見張っているモノがありえる、という話でした。
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