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不思議体験

綿貫 一さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

ハーメルン
長編 2024/01/17 21:36 7,640view
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私は、全速力で駆け出して、穴の手前ギリギリのところで、なんとか陸の身体を捕まえました。

危なかった! 危なかった! 危なかった――!

さっきまでの緩んだ気持ちはすべて吹き飛んで、今は冷や汗が全身を包んでいました。

息が切れています。
目じりからは、涙がにじんでいました。

私の目の前で、蓋の外れたマンホールの穴が、獲物を捕らえられず悔しそうに、あいかわらずその黒い口を開けていました。

なんで蓋が開きっぱなしになってるの――?
どうして、うちの陸が――?
なんで――?

どうして――?

混乱する頭の中で、先日、公園で聞いたふたつの事故のことがフラッシュバックしました。

『さっちゃんは道路の側溝で――』

『海斗クンは溜め池で――』

『このぐらいの年の子が、ひとりで行けるんですかね――?』

『不審者が――』

不審者はいませんでした。
でも、こんなに短期間に、同じような年の子供ばかりが危ない目にあっています。
子供がひとりで行くには遠い場所に、まるで誘われるように――。

「ハーメルンの笛吹き男」

不意に私の頭に、童話の登場人物が浮かんできました。

§
§

『むかしむかし、ネズミの被害で困っていたハーメルンの街に、ひとりの男が現れました。

「私なら、皆を困らせるネズミを退治することができます。みごとなしとげたなら褒美をください」と男は言いました。

街の人々は、男にネズミ退治を依頼しました。

男が笛を吹くと、その音色に導かれるかのようにネズミたちは列をなして、彼の後ろを追いかけ始めました。

男は、そのままネズミたちを一匹残らず街の外へと追い出しました。

街は平和になりました。

ところが街の人々は、男に褒美を与えませんでした。

4/7
コメント(3)
  • ハラハラドキドキ面白かったです。

    2024/01/20/01:28
  • 読みやすく面白かったです

    2024/01/27/11:07
  • 犯人は誰だろう?
    お母さんやお父さん…じゃないしな

    2024/01/30/01:27

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