大人の胴回りほどの太さの幹の、ちょうど私の背丈ほどの位置から樹液が溢れている。
カブトやら、クワガタやら、カナブンやら、蝶々やら。
子供にとっては宝石のような昆虫たちが、ジュクジュク、ピチョピチョ、蜜をすすっていた。
しかし、私はその宝島のようなクヌギより、その木の手前に立っているものに目を奪われていた。
それはすっと、静かに立っている。
暗い森、黒い地面。その中に。
白い――
白い白い白い――。
腕が一本、生えていた。
その先は、真っすぐに天を目指して。
足元は、黒い湿った腐葉土の中から。
「お姉ちゃん――?」
私がなぜそう思ったのかは、私自身にもわからない。
ただ、その白く細い手のように見えるものが、彼女のものだと直感的に思っていた。
私は、それに近づいた。
花の匂いに誘われる虫のように、ふらふらと。
果たして、それは腕ではなかった。
少女の腕のように見えたもの。
それは、白くて細い、すべすべした茸(キノコ)だった。
私は、その場にひざをついた。
そして、その茸の足元を静かに手で堀っていった。
――ざっざっざっざっ
――カナカナカナカナ……
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最後の余韻が怖かった
実話なのか、夏の田舎での早朝の森の様子が手に取るよに分かり怖さを倍増させていてあっぱれです。
ひきこまれました。
うむ🫤
場面の移り変わりや、時間帯や季節の描写が印象的。最後の2行は、主人公が既に闇落ちしていることを示唆しているのでしょうか。