今年は、残念ながら一人で森へ向かう。
森の入り口へと着くと、ヒグラシの鳴き声が、まるで夕立のように頭上の木々から降り注いでいた。
繁みをかき分け、細い獣道を進む。
迷うことはない。
――カナカナカナカナ……
――カナカナカナ……
――カナカナカナカナ……
ヒグラシの輪唱と、ハッハッハッという自分の吐息だけが、鼓膜を刺激する。
網膜には薄暗く、曖昧模糊とした雑木林だけが映る。
夢の中にいるようだった。
不意に、私の目になにか白いものが映った。
木々の間をヒラヒラと、漂うように移動する。
――なんだろう?
こんな時間にこんな場所で、誰かいるなんて思えない。
けれども、それは私の進む方向に、見えつ、隠れつ、ヒラヒラと。
私は、それを追いかけた。
怖いとも思った。
薄気味悪いとも思った。
しかし、夢の中のような夜明け前の森が、私の心のどこかを麻痺させていたように思う。
――ガサガサ、
――ヒラヒラ
――ハッハッハッ、
――ヒラ、ヒラ、ヒラ
突如、目の前が開けた。
そこは目指していた「秘密のクヌギ」の場所だった。
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最後の余韻が怖かった
実話なのか、夏の田舎での早朝の森の様子が手に取るよに分かり怖さを倍増させていてあっぱれです。
ひきこまれました。
うむ🫤
場面の移り変わりや、時間帯や季節の描写が印象的。最後の2行は、主人公が既に闇落ちしていることを示唆しているのでしょうか。