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不思議体験

とくのしんさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

F県K町介護殺人事件
長編 2024/01/01 10:41 12,509view
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兄嫁も四方八方当たってくれた。役所に支援を相談したり、デイサービス等の利用についても調べてくれた。生活保護を受給することも検討し相談したが、退職後の失業保険の受給が収入とみなされることから対象外になると説明を受けた。また要介護認定を受けて、そういった支援を受けることができると提案したが、重田は誰の世話にもなるつもりはないと答えている。このときの重田はもう精神的に追い詰められていたのだろう。人との接触を極力避け、家に閉じこもるようになった。後に母の病状が酷くなる一方で人前に出せないと思ったことや、自身も無職であることが社会的に恥と感じていたこと、田舎という土地柄において人様の支援を受ければどんな噂が立つかという恐怖すら感じたという。自身は一度故郷を捨てた身、それだけで疎外感を感じていたと内情を吐露している。

そして介護生活から1年が過ぎたころ、重田は逮捕された。

母を殺したと自分で通報した。通報を受けて駆け付けた警官が目にしたのは、玄関で倒れている母親とその横で項垂れる重田の姿だった。

駆け付けた警官により重田は連行された。

取調には素直に応じた。重田は犯行動機を次のように供述している。

「介護疲れに加え、失業保険が打ちきられ微々たる退職金も生活費の補填で消えてしまったことによる先行き不安から母を殺した」と。

「介護生活のなかで何度も母を殺そうと思った。その度に思い止まったが、貯金が底を尽きかけたことでこの先、どうやって生きていこうかと絶望した。母を殺して自分も死ぬしかないと思い、母を手にかけた。しかし、母を殺したあと、自殺する気がなくなり自分で通報した」

その供述とおり重田の所持金は6,842円、貯金残高は27,548円しかなかった。

初公判で重田は控訴事実を認め、検察側は重田が事件を起こすまでの過程を詳述した。殺害時の状況に加え、供述のなかで事件を起こしたことの後悔・反省の弁を紹介した。その後の公判における被告人質問では、事件を起こすまでの経緯を淡々と語り「一人故郷に残してきた母への親孝行のつもりで介護を始めたが、結果的に母を殺めてしまうという最低の親不孝をした。時間を戻せるなら戻したい」と涙ながらに述べた。

検察側は、同上の余地はあるが自治体の支援を自身の見栄から受け入れず、結果的に尊い命を奪ったとして懲役3年を求刑された。弁護側は「慣れない介護を献身的に行っていたこと、極限まで追い詰められた精神状態でのやむを得ない犯行だった」と情状酌量を求めた。

最終陳述で重田は「今でも夢を見る。母を殺す夢です。玄関で暴れる母を抑えようと必死に肩を掴んでいたはずが首を絞めているんです。母は苦しそうな顔一つせず私の手の中で息を引き取る。か細い首を絞める感覚が夢から覚めても残っている。母を介護するつもりで故郷に戻ったが、これでは殺すために戻ってきたようなものだ。だとしたら私の人生はあまりにも虚しい」と号泣しながら述べた。

そして迎えた判決公判、裁判官は「極限の精神状態で突発的とはいえ、尊い命を奪った刑事責任は軽視できない」とし、これまでの経緯や献身的な介護をしていたことなどを酌量し、「母親が望むのは、被告の更生であり、そこには恨みはなく、厳罰を求めることはないと推察される」と述べ懲役2年6か月、執行猶予3年を言い渡した。

法廷にはそんなすすり泣く声が聞こえるなか、重田は判決を聞いたあと真っすぐ裁判官を見据えて一礼した。そして重田は言った。

「寛大な判決に感謝しますが、私は死刑を望みます」

その言葉に一気に法廷がざわついた。騒然とするなか、重田は法廷の外へと連れ出された。

その後、重田に面会した弁護人がなぜあのような行動に出たのかと問いただした。

重田はしばしの沈黙のあとこういった。

「裁判で私は母を殺した夢について話しました。この手で母を殺す夢です。母は一切の抵抗をせず私の手の中で死んでいく。穏やかな顔をして死んでいくんです。

判決が出る前日でした。同様の夢を見ました。でもね、その先があったんです。穏やかな顔をしながら息を引き取る母の首を絞める手の力を私は緩めるんです。ゆっくりとスローモーションのように母が崩れ落ちていく。私はそれをただ眺めているだけなんですが、急に崩れ落ちている母が私の胸元にしがみついてくる。攀じ登るように私の両肩を掴みながら母は顔を上げるんですが・・・その表情がね、この世のものとは思えない憎悪に満ちた表情なんですよ。鬼とか・・・般若・・夜叉とか・・・あんな顔をしている。そして肩を掴んでいた手がゆっくりと私の首を絞め始める。凄い力でね。私は悟ったんです。母は私を許していないと。だから私は死刑を望んだのです。」

そういって重田は首を見せた。その首にはまるで絞められたような青あざがあったそうだ。

裁判のあと、ひっそりと生家での生活に戻った重田が亡くなるまでそう時間はかからなかった。重田の変わり果てた姿は、近くの溜池で発見された。

死因は窒息死。当初は他殺の線で捜査が開始された。首を絞められて殺害されたあと、池に遺棄されたものとして考えられていた。しかし自宅には争った形跡はなく、重田の遺体にも外傷の類は見当たらなかったそうだ。唯一首には絞められたあとが残っていたが、結局犯人に繋がるものは何一つ見つけることはできなった。そして警察はこう結論づけた。

重田は自身の手で首を絞めたあと、池に身投げしたと・・・。

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コメント(9)
  • 親を介護しようなどとしてもやりきれなければ却って恨みを買うだけなので、いっそ見捨てたほうが良いというお話ですね。

    2024/01/07/07:02
  • 80-50問題も大変ですし、実際私の兄もワンオペでボケた母親の面倒見てます。仕事も辞めて親の面倒見ると、結局病んでしまいます。かと言って仕事しながら面倒を見ることは難しい。介護ヘルパーを利用すればもう少し負担は軽減ざれたのに

    2024/01/08/07:48
  • 他人事じゃないね

    2024/01/27/07:40
  • 本当に他人ごとではないと思いました。

    2024/02/02/10:34
  • こて冗談抜きで実話ですよ。

    2024/02/05/14:05
  • 凄まじき

    2024/03/26/12:08
  • マッジか!コメントすんの遅れたけど、夜中読んだら鳥肌がヤッバイ!まだ小学3年で、女だけど
    今まで病気以外でビビったの初めて!
    これは…自分の立場考えると怖いね。
    😱

    2024/04/28/10:08
  • 怖いこれはすごいリアルな話だね

    2024/05/09/05:42
  • 更生とか執行猶予みたいな法の概念が虚しく聞こえる事件、すごく怖くてせつない話。でももう母親は許していると思いたいし次の世界では幸せになってて欲しい。

    2024/10/03/23:42

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