自殺をやめた友人Dの話
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
まだ遺書は書けてないが、いっその事、今日決めてしまうのもよかろう。
そう思いながら例の回送電車を待っていた。
案の定、回送と表示のある古い型の、昨日と同じ電車が見えてきた。
やはり他の電車と比べると明らかに速度が遅く、この電車で本当に死ぬことができるのだろうかと思い始めた。
念のため、過去の自殺者は何時ごろの電車を狙ったのかとか、確実に死ねる電車を調べないといけないのかもしれない。
そう考えてとりあえず今日は帰る事にした。
3日目となると慣れたもので、例の回送電車の運転席をしっかりと見る事が出来るようになった。
運転席はやはり薄暗かったが、運転手の他に客が6人いるのが分かった。
ただ、その顔までははっきりと見えなかったが、服装や背格好からして、乗っているのはどうやら毎日同じ客のようだ。
しかもその全員がこちらを見ていた。
電車が線路を通過すると、車両の真横を見る事が出来たが、昨日までと違う事に気が付いた。
車両の前のドアの窓際に制服姿の女子高生が一人いるのだ。
この路線は、近くにある高校の目の前に駅がある事から、その高校専用の電車と言ってもいい。
女子高生はおそらくその高校の生徒だろう。
しかし、こんな時間に高校生が一人で乗るわけが無いし、何かの見間違いか、制服マニアの人が乗っているのか?
そんなことを考えながら今日もまた帰る事にした。
4日目は雨が降ったので踏切へは行かなかったが、いつもの終電の時間が過ぎた頃、なんだか外が騒がしくなった。
大通りの方から救急車のサイレンが響いてきたから、何か事故でもあったのだろう。
大通りには大きな救急病院もあるし、それは特におかしな事では無かった。
翌日、テレビでローカルニュースを見ると、例の踏切でまた自殺と思われる人身事故があったという。
テレビでは女子高校生である事と年齢しか言わなかったから、ネットで調べてみると、やはりあの高校の女子生徒だった。
おととい見た回送電車の窓際にいたあの子は何だった?
回送電車の運転席にいた乗客の人数と今まで踏切で死んだ人数は同じ?
そもそも、なぜ回送電車に3日連続で同じ客が乗っているのか?
疑問が疑問を呼び、5日目もまた踏切へ行かないではいられなかった。
いつもの時間よりも少し早く踏切に到着すると、その脇には花束やお供え物のジュースやお菓子がたくさん置かれていた。
中には、寄せ書きのメッセージや、友人たちと一緒に写った写真が何枚かあった。
よく見ると、おそらく亡くなったであろう女子高生一人だけの写真があった。
その写真を見て愕然となり、手の震えが止まらなくなった。
なぜなら、そこに写っていたのは、おとといの回送電車の窓際にいた女子高生だったからだ。
面白かったです。自殺を自死と言い換えて、その実自殺を奨めている連中に読んで欲しいですね。