自殺をやめた友人Dの話
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
友人Dの話。
Dは仕事も家庭もうまくいかず、結局離婚して住宅ローンという借金だけが残った。
どうせ一人だけだからと、家を売却して安いアパートに引っ越した。
心機一転のつもりだったが、いざ一人になってみると、それまでの家族との生活のギャップに戸惑う日々だった。
引っ越してから半年も経たないうちに、Dは酒に溺れていった。
最低限の荷物しか無い殺風景の部屋に一人でいると、悪い事ばかり考えてしまう。
いつしか、パソコンで検索するのは自殺の方法とか、自殺の名所とか、そんな事ばかりになっていた。
いろいろ調べているうちに、このアパートの近くの踏切では自殺が多いという事がわかった。
分かっているだけでも自殺者は5人以上はいるらしい。
もう夜も遅い時間で、調べると終電があるかどうかというタイミングだったが、下見を兼ねて一度行ってみようと思った。
その踏切に着くまで、歩いて5分もかからなかった。
踏切の脇で何となく線路を見ていたが、往来する人も車も誰もいなかった。
確かに、この時間なら誰もいないから余計な被害者と言うか目撃者などは最低限で済みそうだ。
もし今ここで飛び込んだらどうなるだろう、いやその前に遺書くらいは書いておこう、とかそんな事を考えていると、警報が鳴り遮断機が下りると、1本の電車が遠くに見えた。
どうやらこれが終電らしい。
しばらくして、ガタンガタンと電車が踏切を通過した。
遮断機は上がったが、なぜかその場を離れられないでいた。
しばらくその場にたたずんでいると、さっきの終電から10分以上経った頃だろうか、再び警報が鳴り遮断機が下りてきた。
「あれ?さっきのが終電じゃなかったのか…?」
そう考えていると、さっきの電車と同じ方向から「回送」と表示された1両だけの古びた電車がゆっくりと走ってきた。
「ああ。回送電車か…。」
そう思って車両の運転席を見てみると、運転席は室内灯が暗くてよく見えなかったが、運転手以外に5~6人乗っていたようだった。
多分、希望者を運転手のような気分で体験乗車を募っているのだろう。
暗い客席に誰もいないその電車はゆっくりと通過して行ってしまった。
遮断機が上がった後もしばらくその場にいたが、もうかなり遅い時間になっていたから帰る事にした。
帰ってから遺書を書く準備をしたつもりが、いざとなると書く勇気が出なかった。
翌日、同じ時間にまた踏切へと足を運んだ。
昨日と同じように、警報機が鳴って遮断機が下り、終電が通過していった。
遮断機が上がった後も踏切から離れなかった。
あと10数分経ったら、あの回送電車がやってくるはずだからだ。
面白かったです。自殺を自死と言い換えて、その実自殺を奨めている連中に読んで欲しいですね。