くらやみ様
投稿者:綿貫 一 (31)
彼女は僕の方を振り返りもせず、ただ黙って前を向いています。
彼女の視線の先、部屋の壁にはドアがありました。
木製のドアです。
閉じたドアの、その四方から。
黒いモヤモヤしたものが溢れてきていました。
それはガスのように、霧のように、
ドアと壁の、見えないほどの隙間から、
ゆらゆら、モヤモヤと溢れてきているのです。
彼女は、背後の僕に気づけないほど、その黒いモヤモヤに心を奪われていました。
彼女は、それを恐れていました。
とても恐ろしいのに、いえ、とても恐ろしいから、足がすくんでその場から動けないでいるのです。
彼女の足がガクガクと震えています。
僕は彼女の部屋に入り、急いで彼女の手を引きました。
そして、驚く彼女を無理やり引きずり、僕のいた部屋へ連れてきました。
慌ててドアを閉めます。
彼女は状況が分からず、呆然としていました。
でも、落ち着くにつれ、僕が彼女をあのモヤモヤから助け出したのだ、と理解したようでした。
彼女は僕に感謝しました。
ありがとう、と。
本当に怖かったの、と。
僕の手をとって、自分の手で包んで、頬を寄せてそんなことを口にします。
僕はまったく嬉しくなって、それでも少し格好をつけて、
大丈夫だよ、とか言いました。
僕は誇らしくなりました。
好きな女の子に頼られ、認められることが、これほどの快感なのだということを生まれて初めて知りました。
満足感と恍惚感で、僕の視界は真っ白に染まっていきました。
………
………
………
気づくと、自分の部屋のベッドの中にいました。
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