Fさんのフィリピン・ヒトコワ紀行
投稿者:kana (210)
ある日、駅の近くを巡回していたら、部下が指名手配犯を見つけた。犯人は人混みの中へ逃げ込んだ。賢明な判断だ。しかしハリ軍曹にかかれば逃げ切れない。やおら腰の45ガバメントを引き抜き、その人混み目がけて、警告もなく発砲した。パンパンパン、市民も慣れたもので銃の発射音がすると一斉に道路に伏せる。そこが水溜まりでもだ。犯人だけが、走っている。一斉射撃だ、声もなく倒れた犯人は即死だった。
(・・・その男、凶暴につき・・・とはこの事か。)
・・・・・・
【ハリ少尉とロスチャイルド誘拐事件】
イギリスのロスチャイルド一族の13才の令嬢が誘拐された。身代金100万米ドルの要求だ。ロスチャイドルと言えば、世界の金融王だ。100万ドルはポケットマネーで払える。
遅々として捜査が進まず、人質の救出もままならない。ハリ少尉に交渉人に成ってくれるよう依頼が来た。『警察官では無い犯罪者集団』の事を『マフィア』と呼んでいる。ハリは、これらとも裏で繋がっていた。人質の所在は2時間で割れた。人里離れた山深いジャングルの中だ。200年前スペインに反抗するゲリラが造った要塞だ。大勢で取り囲んでも、人質を無事に奪還できる保証が無い。力攻めでは大勢の犠牲者がでる。スペイン軍でさえ制圧出来なかった難攻不落の要塞だ。
だが、農民が2日に一度、食料を運んでいると言う情報を得たハリ少尉は、農民に変装して、単身乗り込む決心をした。つるで編んだカゴの底に、45ガバメントを2丁隠し、その上にタロイモをのせた。小男で品のない顔をしているから、変装しなくても農民に見える(とはFさんのお言葉)
いよいよこれから乗り込む。万一、人質の奪還に失敗したときは、アメリカ空軍の戦闘機が要塞を破壊して賊達を一人残らず殲滅してしまおうと言う作戦だ。勿論ロスチャイルド家の了解をとってある(カネで解決しようとしないんだね)。
あと1キロの山道を登れば要塞だ。この男、まったく緊張していない。むしろ嬉しそうだ。この作戦が成功すれば、またまた昇進だ。いままで2度の飛び級昇進で少尉になった。
入り口に一人、見張りが居る。情報では賊は8人だ。ガバメントを2丁持ってきたのもそのためだ。もし弾切れになったら、この鎌で戦うしかない。
「タロイモ持って来ただ」左足を引きづりながら、ひどいなまりのタガログ語で挨拶した。
見張りのやつは、カンカンだ。
「毎日タロイモじゃ身がもたねーって言ったろ、この馬鹿ヤロー!たまには肉とか豆とか持ってこい」
ハリ扮する農民が「ヘイ、この辺じゃこれしかねーだ。街まで行ってくるにはこの脚では無理ってもんだ」ブツブツ言いながらも、疑うこともなくハリを通した。
見張りの横を通り抜けながら、鎌で喉を切り裂いた。喉から空気が漏れて声が出ない。
カゴに隠し持ってきた45ガバメントを両手に構えて突入した。ライフル銃を抱いて居る奴を先に撃った。こういう時は反撃する危険が高い順に撃っていく。
距離は7mだ、かたまって居るから狙い易い。そのへん目がけて撃てば誰かに当たる。2丁のガバメントを同時に乱射した。(バンッダンッバンッダンッ!!)
賊は突然の襲撃に逃げるのが精一杯で、反撃する間が無い。まさか一人とは思ってもいなかったに違いない。弾が切れた。逃げていく二人の後ろ姿に「ハリだ投降しろっ!命だけは助けてやる」この名前を聞いた二人は、手を挙げて無抵抗の姿勢を見せた。ハリじゃ敵わない。続けて「拳銃を左手でゆっくり抜いて、地面へ置け」と命令した。さらに「5歩前へ」
ハリは置かれたガバメントを拾い、二人の頭へ銃弾を撃ち込んだ。人質は無傷だった。
か細い体を背負って山を下りる。ハリの心はルンルンだ。昇進間違いなしだ。笑顔を隠すのに苦労している。
2キロ下ったところへ部下達が待機していた。ハリを見て、歓声があがった。凱旋将軍を迎える市民のそれだ。アメリカ空軍はハリ少尉が人質を求出して要塞を離れた事を確認して、爆撃を開始した。2度と使えなくしておこうということだが、本心は、この事件はフィリピンだけにとどまらず、世界中に報道されるはずだから、その時にアメリカ空軍のバックアップがあったと印象づけるのが狙いだ。山を下りるハリ達の後ろで爆撃音が絶え間なく続いた。
マニラに帰れば報道関係者が一杯のはずだ。泥だらけの顔を撮られるのは思春期の娘にしたら死ぬより辛いに違いない。12日も監禁されていた13才の娘は、髪は乱れ、顔も洋服も泥だらけだ。途中、民家に寄ってシャワーを借りて、身繕いをした。こんな時、ミスターハリの名前は役に立つ。フィリピン中で知らない者は無い。
人質救出の報を聞いたマニラでは、記者会見を自分のところでやろうと大統領府(マラカニアン宮殿)やマニラ市庁で綱引きをしている。万一失敗したらハリの責任にしてしらばっくれるつもりだった。ハリは機動隊に帰っていった。隊長以下全将校が出迎えてくれた。翌日の新聞には、令嬢を真ん中に隊長とハリが両脇に立って写っていた。ハリ、またまた4階級特進で中佐になった。機動隊の中ではNO2だ。
若干35才にして、いわゆるキャリアでない者が中佐まで登りつめたのは異例中の異例だ。しかし喜んでばかりは居られない。ハリ中佐に殺された反政府組織の中には、ハリをつけ狙う者が少なくない。これらをあぶり出して逮捕するか、殺害しなければ、枕を高くして寝られない。悪名高い目明かしや、裏で繋がりのあるマフィアを使って調べ上げ、目星をつけた人物を、うむを言わせず逮捕する。裁判なんて掛けない。グルグル巻きに縛って、宿営地の裏庭に引き出し、蛮刀で首を切り落とす。それが武装しているらしいと情報が入ると、いきなり撃ち殺す。証拠なんて要らない。銃を持っていれば正当防衛だ。持っていなければバタフライナイフを握らせる。こうして次々と討伐していくが、一人殺せば二人増え、二人殺せば四人増える、止めどもない暴力の連鎖が延々と続く。3年後、隊長が定年で退官した。軍と警察の定年は、55才だ。ちなみにフィリピンの平均寿命は47才である(当時)。
ハリは大佐に昇級して機動隊の隊長になった。
ハリ大佐は日本人には親切だ。金を持っていると言うだけではない、絶対に命を狙わない、これだけでも安心らしい。
新隊長になったハリ大佐が射撃場にやってきた。
「ミスターF、その銃では10年経っても少佐には勝てないヨッ。バレルが2.5インチしかないし、軽すぎるし、バランスが悪い。これでは早撃ちは出来るが、撃つだけで、当てる事はできないよ」つまり、精密射撃は無理だと言っている。
「これで撃ってみなさい」腰の45ガバメントを出した。ステンレス製で、グリップは象牙造りだ。彫刻がびっしり施してある。そこへ金銀が埋め込んであるので、それはそれはもう芸術品としか言いようがないほど素晴らしい銃だ。
面白かったです。 再現映像で見てみたい。
↑kamaです。コメントありがとうございます。
フィリピンで映画化してほしいですね。ちょっとインド映画風なノリで。