Fさんのフィリピン・ヒトコワ紀行
投稿者:kana (210)
フィリピンではこの種の事件で裁判になっても、事件の真相を審理して、正邪を争うのではなく、裁判官により多くのアンダーテーブルを持って行った方が正義となります。最高裁判所も同じ。(あくまでも当時の話)
殺された警部補はFさんが支払う月給制で、たとえFさんがバギオに居なくても月30万円を支給する。警察からの正規の給与は3万円だから、警部補の家族中から感謝される。Fさんがフィリピンにいない時はお金だけもらってフリーである。が、そこでこの事件が起きた。
ここから先は事件の現場検証による想像です。
警部補の運転するクルマが、まれにしか無い信号機のある交差点で止まったところ、後ろから来たクルマが左隣りに並んで止まった。そこはセンターラインをまたいでいたので一瞬警戒した。そのクルマを運転している男が、いまトラブッている警視総監の息子であった。彼が拳銃を構えるのが見えた!瞬間、ハンドルの右側に体を沈めて身を隠す。敵の発射した初弾は左側のドアガラスを粉々に破壊して警部補の背中をかすめ、右側のドアーを撃ち抜いた。警部補は直ちに応戦しようと拳銃に手を掛けたが、ももと右脇腹に挟まって、銃が抜けない。あわてて体を起こしたところを、敵が放った二の矢が、左耳の付け根から右目の上を貫通した。ガバメントの45口径弾だ。助手席に脳みそが撒きちらされていた。おそらく痛みを感じる間もなく即死だったに違いない。
Fさんはカタキを取るべく敏腕弁護士を7人雇って、強力な弁護団を結成し裁判を通じて警視総監を追及している。(尚、この裁判結果については不明となっています。フィリピンはこの後、民主革命が起こり、政権がアメリカへ亡命する事態となったりして国中が大騒ぎとなりましたから、果たしてこの裁判が正常に結審まで行ったのかも不明です。)
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【英雄、ハリ大佐】
さて、いつもはフィリピン国軍陸軍士官学校の射撃場で、バギオ警察の射撃教師にガンファイトのいろはから教えてもらっていたFさん。すっかり警官や兵士たちからまで尊敬される神業シューターになっておりました。
しかし、お稽古のために士官学校へ行きずらくなってきた。兵士たちはFさんの顔を見ると駆け寄ってきて握手を求める。まるでヒーロー。街なかで逢っても最敬礼。憧れとか尊敬とか、それだけではない。彼らは非常に貧しい。Fさんはそんな貧しい彼らに握手するたび100ペソを与えていた。円に換算すると600円(2023年現在は263円)だが、ここでは1万円の感覚だ。兵士の一日の食事の予算が18ペソだ。警察官や目明かしのように余録が無い。最近、士官学校へ行くと兵士が2、30人、ドッドッドッと駆け寄ってくる。さすがのFさんも困った。
そんな時、バギオ市長からマニラ郊外にある機動隊の射撃場を紹介された。市長の警護をする例の少佐も、実はこの機動隊の所属。要は最近天狗になっているFさんを、フィリピンのウイリアム・テルである少佐と競射させて打ち負かしたいという腹である。
結果として、この競射でFさんは初めて煮え湯を飲まされることになるのだが、ここで機動隊の隊長、ハリ大佐と出会う。ハリ大佐はボロボロの射撃場を修繕する費用20万ペソをFさんにねだった。その代わりFさんは自分や関係者が来たときは無料でこの射撃場を使わせてほしいと取引し、話はまとまった。かくして射撃場にはFさんの専用ロッカーもでき、写真まで貼られる始末。以降Fさんは兵士たちに金をせびられることもなくじっくりと射撃にいそしんだのだが・・・。
このハリ大佐。実は大変な人物だった。
ハリ大佐は機動隊の隊長だ。大統領さえ遠慮して口を利く。48才にしてすでに伝説的な男だ。この男の凄さは、日本人では理解できない。一口で言えば「馬鹿丸出し」だ。
18才で警察官になり30年間で180人を射殺したり、蛮刀で斬り殺しているらしい。
らしいとは、市民の見えない所で殺しているのもあるから正確な人数は分からない。本人も全部覚えていないようだ。いまだ将軍になれないのはここにある。
ハリが警察官になって間もなく、マニラのマラカニアン宮殿の広場でデモが起きた。
日本のデモとはまったく違う。彼らは武装しているのだ。拳銃はもちろん、ライフル、手榴弾、バズーカ砲、もはやこれはクーデターだ。鎮圧に向かった機動隊の中にハリ巡査が居る。手にはサブマシンガンが不気味な黒光りをはなって出番をまっている。
宮殿に着いたハリ巡査の部隊が目にしたのは、宮殿守備隊とデモ隊が睨みあいをしていて一触即発の状態だ。トラックを降りたハリは、デモ隊目がけて突進した。走りながらサブマシンガンのトリーガーを引く。銃口の前に居るデモ隊はバタバタと倒れた。背中のリュックに入れて持ってきた予備のマガジン30本を取り替え取り替え、デモ隊目がけて撃ち放つ。
上官の中尉が止めようとして近づいたが、あまりにも恐ろしい顔をしているハリを見て後ずさりした。うっかり声を掛けると、自分も撃たれそうだ。全弾撃ち終わってもハリの人差し指はトリーガーを引いたままだ。あたりは地獄絵図。道路が血の川になっている。
死にきれない者のうめき声があたりを埋め尽くす。野党の上院議員がこのデモの首謀者だ。
死体の間を縫うように上院議員を探す。いた! 脚に銃弾を受けて倒れていた。
ハリ巡査は迷わず腰の45ガバメントを引き抜き、後頭部を打った。上院議員の血と脳みそが道路に飛散する。勝った!その間、守備隊と機動隊は一発も撃っていない。あっけにとられて見ていただけだ。なんと、ハリ一人で100人以上を殺戮してしまったのだ。
「一人殺すと犯罪者になり、1000人殺すと英雄になる」と言う諺がある。
まさにハリは、18才にしてヒーローになった。
軍人と警察官は、直接裁判に掛けられない。ハリは警察の査問委員会で有罪か無罪か審議される。いままで査問委員会にかけられた者は100%有罪だ。しかし、ハリ巡査は良くも悪くも市民の人気は抜群だ。同時に機動隊の人気も「頼りになる」と評判が良くなった。予算が増えそうだ。ハリを有罪にして検察庁に送れば、査問委員会のメンバーが批判を受ける。
高度な政治的判断から無罪と判断された。ハリは4階級特進で警部補になった。ハリ警部補、得意の絶頂だ。実はフィリピンには巡査とか警部補と言う官位は無い。読者が日本人なので、便宜上使っているだけで、本来は軍も警察も同じ官位をつかっている。従ってハリ軍曹が正しい。この昇進がハリ軍曹のその後を大きく変えた。利口な男ではない。犯罪者を射殺すると昇進できると思いこんでしまった。不幸?のはじまりだ。
軍曹と言えば軍隊で言えば小隊長だ。部下10人を引き連れ、先頭に立って公務に励むハリ軍曹はカッコよかった。部下にバタフライナイフを持たせた。
「間違って無実の者を射殺してしまったら、このナイフを握らせろ。正当防衛だ」
面白かったです。 再現映像で見てみたい。
↑kamaです。コメントありがとうございます。
フィリピンで映画化してほしいですね。ちょっとインド映画風なノリで。