忌蛇千箱(イシャチバコ)
投稿者:rark (34)
そう言うと、おじいさんは、ワイヤレスイヤホンのケースくらいの大きさの、真っ黒い小さな箱を取り出しました。
「中身は供養したので今は害はないですが、コレも供養する予定です。この箱は、忌蛇千箱(イシャチバコ)と言って、中国に伝わる古い呪法のようなものです。我々の寺に古い書物が残っているのですが、この呪いは、蛇神。蛇を使ったものなんです。これをやろうと思えばまず、蛇の目玉をくり抜き、左目を自分の体内に、そして右目は小さな木箱へと入れます。そして木箱に、自分の血を染み込ませた紙に自分の名前を書いて一緒に入れ、蛇神の名前を3回唱えます。そして最後に、その場で自分の体を傷つけ、血を混ぜこませた漆を箱に塗るんです。ひと塗りひと塗り。憎悪を切らさないように。そしてその呪法を使った本人は、1週間程、痛みや吐き気などに襲われます。しかし、1週間が経つと、それらの苦しみは無くなるのですが、それに耐え抜いた人間は、その時点ではもう人間では無いのでしょう。そして、その後。苦しんだ分の強い呪いを、誰かにかけるわけです。
そしてもっとも厄介なのは、その呪いをうけた人が、信者という形になり、同じ呪法を使い、呪いをまた別の人へと伝染させて行く。それが、この箱です。始めにこの呪法を使った人は、死んでしまう。と、書かれていますが、呪いをうけた信者は最終的には精神がおかしくなってしまうそうです。しかし、今回祓ったあなたの呪いは、信者というよりは、その呪法を行った本人に近いものだったんです。つまり、あなたに呪いをかけた人物は、1人ではないということなのでしょう。ですが、その呪いもあなたで断ち切ったので、もうこれ以上呪いが伝染することもありませんし、あなたももう大丈夫です。」
そう話終えると、箱の供養を済ませるまで、一応ここにいてくれということで、お茶を出してもらい、1時間くらいした後、僕は車で駅まで送ってもらいました。
そして、二駅分電車に乗って、最寄りの駅に到着した時、ふと考えました。
何故行く途中に苦しんでいた時、僕は駅前の交差点を目指していたのでしょうか。
そんなことを考えながら、信号を待っていました。
「やっぱり。お前じゃなくて俺なんだな。」
自分の隣を1人の男性が通り過ぎて、そのまま歩いていきます。しかし、信号はまだ赤のまま。その男性を止めようにも、僕の足は動かない。その声は始めて聞く声。しかし、その男性の結末。ソレはもう分かってしまっている。
吹いてきた風が前髪を左へと流す。
ガシャァン!!
そこからは一瞬だった。突然その男性がふっと消えたかと思った瞬間、自分の目に映ったのは、地面に倒れた男性。そしてその男性を引きずったまま電柱に突っ込んだトラック。
「事故だ!!」
「人が轢かれた!!」
「救急車!!警察呼べ!!」
当たりが、大騒ぎする中、僕はその場で硬直していました。足も動かない。声も出ない。その跳ねられた男性は、うつ伏せの状態で顔だけ横を向いて、こっちを向いている。しかし、顔の左半分が地面に埋まって……いや、無くなってるのかな……?そしてその男性を僕は知っている。あの人だ。あの電車で、おばさんの後に続いて出ていったおじさん。そのおじさんの右目は、今朝、鏡で見た自分の目と同じ状態でこっちをじっと見つめている。
「やっぱり、お前じゃなくて、俺なんだな。」
さっき言われた言葉がこの光景を見て、やっと意味がわかった気がする。
そのおじさんは白目の部分が真っ赤になった目で、こっちを見ている。
僕は逃げるように、その場を立ち去りました。
あのおじさんの、真っ赤になった右目から感じる冷たい視線は、
今でも忘れられない。
読んで頂きありがとうございます。久しぶりの投稿となってしまいました。申し訳ありません💦
中国の呪いも恐ろしさですね。
楽しく読ませて頂きました。
4.8メートルて刻むなぁ